採用面接の席上で、求職者を威圧してその適性や能力を判断するいわゆる「圧迫面接」を行う企業がごく稀にあるようです。
例えば、受験者の回答に対して執拗に否定的な意見を述べたり、大声で威圧したり、故意に怒らせるような言動で挑発したりして受験者の反応を確認するような面接手法がそれです。
容疑者を尋問する刑事が使う「良い警官、悪い警官」戦術の”採用面接版”のようなものを想像すると分かりやすいと思いますが、このような面接手法は常識的に考えるとまともな手法とは思えませんので、それが許されるものなのか疑問があります。
では、このような圧迫面接はそもそも認められるものなのでしょうか。
個人の人格権を損なう圧迫面接は違法性を帯びる
このように、採用面接において威圧的な態度で求職者を追い込む「圧迫面接」が行われるケースがあるわけですが、結論から言えば好ましい手法ではありません。
その程度によっては、個人の人格権や基本的人権を棄損することにつながり違法性を帯びるからです。
もちろん、面接官の態様は様々でしょうから、面接で行われる厳しい対応のすべてが圧迫面接と言えるわけではありませんので、その態様によってはある程度きびしい質問は許されなければなりません。
しかし、憲法は幸福追求権(憲法13条)やそこから導かれるプライバシー権を保障していますから、個人の人格を否定したり誹謗中傷したり、容姿や趣味嗜好を否定するような質問は許されませんし、過度なストレスを与えるような威圧的な面接も許されるものではないでしょう。
【日本国憲法第13条】
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
この点、企業には「採用の自由」が認められていますから、「厳しい質問に耐えられた骨のある求職者だけを採用したい」などという企業の希望もある程度許されるべきだという意見もあるかもしれません。
もちろん、業種によってはそのような特性が必要となる職種もあるでしょうから(たとえば警備員とかクレーム対応のオペレーターとか)、その適正や能力を判断するうえで厳しい態度をとることも一定の範囲で許されなければならないでしょう。
しかし、憲法は国民の基本的人権を保障しているわけですから、企業の「採用の自由」も無制約なものではなく、それは国民の基本的人権の保障の枠内で許されるものであり「公共の福祉(憲法12条)」の制約を超えてまで認められるものではありません。
ですから、企業の「採用の自由」の側面を考えたとしても、求職者の人格権を否定するような過度に威圧的な圧迫面接は認められないと考えられます。
厚生労働省の指針でも圧迫面接とならないよう注意喚起されている
なお、圧迫面接については厚生労働省の指針(※参考→https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo.htm)でも注意喚起されていますので念のため引用しておきましょう。
「就職」というものは、一人の人間の人生を左右しかねない重大な決定にかかわるものです。
※出典:公正な採用選考を目指して|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/saiyo-01.pdfより引用
そのため、面接担当者は、人権や差別問題に対する見識をもった上で、応募者を一人の人間として尊重し、その基本的人権を尊重する立場に立って思いやりのある姿勢で臨み、応募者の人権や人格を傷つけるおそれのある質問や態度をとらないようにしましょう。
また、仮に職務上必要なストレス耐性を評価するなどの意図がある場合であっても、面接担当者が過度に威圧的な態度をとり、応募者の人権や人格を損なうようなものとならないように十分留意しましょう。
採用面接で圧迫面接を受けた場合の対処法
このように、個人の人格権を損ねるような過度に威圧的な圧迫面接は許されないと思われますが、実際の採用面接でそのような過度に威圧的な態度を取られた場合、求職者がどのような対応を取ればよいかが問題となります。
(1)その会社への入社を取りやめる
この点、上に引用した厚生労働省の指針に反するような威圧的な面接が行われた場合には、その会社への就職活動は取りやめた方がよいかもしれません。
厚生労働省の指針が出ているにもかかわらず、それを無視して過度な圧迫面接を行っている会社は倫理意識や法令遵守意識の低さを推測させるからです。
個人の人格権を損なうような面接をする会社から内定を受けて入社しても、入社後にパワハラや不当な労働条件の引き下げ等のトラブルに巻き込まれる蓋然性が高いと思われますので、将来的なリスクを考えれば他のまともな会社を探す方が無難です。
ですから、人格権が損なわれるような過度な威圧的な態度を取られた場合には、その会社への入社が本当に自分の人生を豊かにするのかという点を今一度熟慮してみることをお勧めします。
(2)ハローワークに圧迫面接の事実を申告(相談)してみる
採用面接で過度に威圧的な態度を取られた場合には、その圧迫面接の事実をハローワークに申告(相談)してみるのもよいかもしれません。
先ほども説明したように、圧迫面接は厚生労働省の指針でも注意喚起されていますが、その指針の指導機関はハローワークとなりますので、その事実を申告(相談)することで情報提供として受理され、今後の行政指導などに役立てられるかもしれません。
また、仮にその圧迫面接を行った企業がハローワークから紹介されたものである場合には、行政から何らかの指導などが入ることでその企業の面接態様の改善に寄与できるかもしれません。
もちろん、仮にそうなったとしても自分の不採用が覆ることはないかもしれませんが、社会から圧迫面接を一つ無くすことに貢献できることになりますので社会的な意義はあると言えます。
ですから、自分が圧迫面接を受けて納得できない場合には、とりあえずハローワークに申告(相談)してみるというのも考えてよいかもしれません。