試用期間を「延長」された場合の対処法

労働者が会社(個人事業主も含む)から採用を受けて働き始める場合、入社から一定期間「試用期間」が設けられることがありますが、ごくまれにその試用期間が会社側の都合で延長されて本採用が受けられないというトラブルに見舞われてしまうことがあるようです。

たとえば、「試用期間3か月」との説明を受けて労働契約(雇用契約)を締結し働き始めた労働者が、試用期間の3か月を経過する直前になって会社(個人事業主も含む)側から「試用期間を3か月間延長する」と告知され、さらに3か月間経過するまで本採用が受けられなくなったというようなケースです。

しかし、試用期間の延長が無制限に許されるとすれば、試用期間にある労働者は本採用が受けられないリスクを抱えたままの不安定な就労を長期間にわたって強制されることになりますので、労働者にとってあまりにも酷な結果となるような気もします。

では、こうした試用期間の延長はそもそも認められるものなのでしょうか。

また、実際に入社した会社(個人事業主も含む)から一方的に試用期間を延長された場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

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試用期間の延長は原則として認められるべきではない

このように試用期間が使用者側の都合で一方的に延長されてしまうケースがありますが、結論から言えばこうした試用期間の延長は認められるべきではありません。

先ほども述べたように、試用期間が延長されれば試用期間にある労働者が当初説明を受けた期間を超えて長期間、不安定な地位に置かれてしまうことになるからです。

試用期間は、労働者の適性や能力等を観察して本採用しないと判断した場合に解雇または本採用の拒否という形で労働契約(雇用契約)を解約する権利が使用者側に留保されていることになりますから、その期間の労働者は本採用が受けられないことで仕事を失うかもしれないという不安定な状況にあります。

そうであれば、その労働者にとって不安定な期間は採用の際に説明された当初の期間に限定されるべきであって、使用者側の都合でその延長を認めるべきではないでしょう。

なお、この点については、労働法の専門書(菅野和夫著「労働法(第八版)」弘文堂170頁)でも

解約権留保付きの労働契約と解される通常の試用関係においては、解約権が行使されないまま試用期間が経過すれば、労働関係は留保解約権なしの通常の労働関係に移行するのが原則である。

※出典:菅野和夫著「労働法(第八版)」弘文堂170頁

と説明されています。

ですから、試用期間の設定された労働契約(雇用契約)においては、その当初設定された試用期間が経過すれば、その経過するまでの期間に使用者側が解雇権を行使して解雇または本採用の拒否を判断しない限り、自動的に本採用に移行すると考えるべきであって、試用期間の延長は認められるべきではないと言えます。

試用期間の延長が例外として認められる場合とは

このように、試用期間の延長は労働者を不当に長期間にわたって不安定な地位に置くことになりますので基本的には認められるべきではありません。

もっとも、ケースによっては試用期間の延長が労働者側に利益となる場合もありますし、契約自由の原則の建前から判断すれば試用期間の延長を一概に否定する必要性もない場合もあると考えられます。

具体的には次のようなケースでは例外的に試用期間の延長が認められるケースもあると考えられますので注意が必要です。

(1)本採用を拒否できる事由がある場合にそれを猶予するために延長する場合

たとえば、試用期間中において労働者側に本採用が拒否されうる事由があったにもかかわらず、使用者が解約権を行使せず、本採用拒否を猶予するためにあえて試用期間を延長する場合には、それが認められるケースあるものと考えられます。

たとえば、「試用期間を3か月」として雇い入れられた労働者が無断欠勤を繰り返したことから使用者が本採用を拒否できる状況にある場合において、当該試用期間にある労働者に反省を促すためにあえて本採用拒否を提示せず、試用期間をさらに1か月間延長するようなケースです。

このようなケースでは本来であれば本採用を拒否されてしかるべき労働者の側が試用期間が延長されることで本採用の機会が得られることになりますので、労働者に利益はあっても不利益にはなりません。

ですから、こうしたケースでは試用期間の延長が有効と判断できるケースもあるものと考えられます。

ただし、『試用期間の長さはどれぐらいまで許されるか、またその対処法』のページでも解説したように、試用期間の長さは労働者を不当に長期間にわたって拘束するものであってはなりませんから、労働者の利益のために延長する場合であってもその試用期間の長さによっては無効と判断されるケースもあるかもしれません。

ですから、たとえば「試用期間を3か月」として雇い入れられた労働者が無断欠勤を繰り返したため使用者がその試用期間にある労働者のために本採用を拒否せずに試用期間を延長することがあったとして、その延長した期間が2~3か月間程度であれば問題ないかもしれませんが、半年から1年を超えるようなケースでは最初の試用期間3か月と合計して1年前後の試用期間となってしまいますので、そうしたケースでは試用期間の延長が無効と判断され合理的な範囲の延長期間(例えば数か月間とか)が経過した時点で本採用に移行すると判断される余地もあるものと考えられます。

(2)就業規則や個別の労働契約等であらかじめ延長の可能性やその事由が明示され労働者の理解が得られている場合

また、試用期間の延長が行われる可能性があることやその延長がなされる事由について、労働者が入社する際に使用者側からあらかじめ説明を受けていたようなケースでも、試用期間の延長が認められるケースがあるものと考えられます。

使用者には労働者に対して労働契約を説明して理解を得ておく理解促進義務が課せられていますが(労働契約法第4条1項、同法8条)、あらかじめ労働者が説明を受けて承諾している事実があるのなら、試用期間の延長を認めても労働者にとって不利益とはならないからです。

【労働契約法第4条1項】

使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。

労働契約法第8条

労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

ですから、たとえば「試用期間を3か月」として雇い入れられた労働者が、試用期間満了後さらに数か月間延長される可能性があることが規定された就業規則の存在を入社する際に説明されていてそれを了承したうえで入社した場合などでは、例外的にその試用期間が有効と判断されるケースもあるものと考えられます。

もっとも、『試用期間の長さはどれぐらいまで許されるか、またその対処法』のページでも解説したように、試用期間の長さは労働者を不当に長期間にわたって拘束するものであってはなりませんので、あらかじめ説明を受けていた場合であってもその試用期間の長さによっては公序良俗に反して無効と判断されるケースもあるかもしれません。

ですから、仮に入社する際に「試用期間は半年間延長されることがある」などと規定されていてその説明を受けていたとしても、当初設定されていた試用期間と合計してその期間が不当に長い期間にわたって労働者を不安定な地位に置くものであるケースでは、その延長が無効と判断されるケースもあるものと考えられます。

また、あらかじめ説明を受けていた場合であっても、その延長の事由に合理的自由がなかったり社会通念上相当でないような場合、例えば個人の思想や信条を理由として試用期間を延長したり(たとえば国籍や支持政党、信仰している宗教などを理由に試用期間を延長するなど)する場合には、その試用期間延長の事由自体が違法性を帯びてしまいますので(労働基準法第3条)、そうしたケースでは延長が否定される場合もあるかもしれません。

【労働基準法第3条】

使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

ですから、試用期間延長の可能性やその延長されうる事由についてあらかじめ説明を受けていた場合であっても、その延長の態様に不当なものがないかという点は検討する余地はあると言えます。

試用期間が延長された場合の対処法

以上で説明したように、試用期間の延長が有効と判断されるケースも例外的にはあるかもしれませんが、基本的な考え方としては試用期間の延長は無効と判断されてしかるべきものと言えます。

そのため、仮に実際に働き始めた会社で試用期間が延長された場合には、その延長の無効を主張してその撤回や試用期間経過後の自動的な通常の労働関係への移行を求めることもできると考えられますが、一般の労働者がそうした主張を会社にしていくのも困難が伴いますので、具体的にどのような対処をとりうるかが問題となります。

(ア)試用期間の延長が違法なものである点を指摘した書面を送付してみる

試用期間が不当に延長された場合には、その違法性を指摘する書面を作成し、会社に郵送してみるのも対処法の一つとして考えられます。

前に述べたように、試用期間の延長は労働者を不安定な地位に拘束することになりますので、前述した(1)や(2)のような例外的な事情がない限り基本的には認められないと考えられますが、そうした事情がないにもかかわらず試用期間を一方的に延長する会社はそもそも法令遵守意識が低いので、口頭で「不当な試用期間の延長を撤回しろ」と抗議しても聞く耳を持ってくれないのが普通です。

しかし「書面」という形で正式に抗議すれば、将来的な裁判等を警戒して話し合いに応じたりしてくることも期待できるかもしれませんので、とりあえず書面という形で異議を申し入れておくことも効果がある場合があると考えられるのです。

なお、この場合に会社に送付する書面の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

試用期間延長の撤回申し入れ書

私は、〇年〇月〇日、貴社に中途採用として入社いたしましたが、6か月の試用期間が経過した同年〇月〇日、貴社から試用期間をさらに半年間延長する旨の通知がなされました。

しかしながら、私が入社する際、貴社からは6か月間の試用期間が経過して本採用を拒否されなければ本採用として通常の労働契約になるとしか説明を受けておりませんので、当該試用期間の延長に私が合意していない以上、貴社の都合で試用期間を延長することはできないものと考えられます。

したがって、貴社の行った試用期間の延長は、労働契約上の根拠を欠きますので、直ちに撤回するとともに、当初の試用期間経過時点で本採用の拒否がなされなかった以上、その時点で本採用なされたものとして労働契約を継続するよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

(イ)労働局の紛争解決援助の手続きを利用してみる

不当に試用期間を延長されてしまった場合には、その事実を労働局に相談(申告)して労働局の紛争解決援助の手続きを利用してみるというのも対処法の一つとして考えられます。

労働局では労働者と事業主の間で発生したトラブルの解決を図るために個別紛争解決援助の手続きを用意していますが、不当な試用期間の延長がなされて本採用が受けられないようなケースも労働者と事業主との間に紛争が発生していると言えますので、この手続きを利用することが可能です。

この点、この労働局の紛争解決援助の手続きに法的な拘束力はありませんので、会社側が手続きへの参加を拒否する場合は解決は望めませんが、会社側が手続きに応じる場合には労働局から出される助言や指導、あっせん案などの会社側が応じることで不当な試用期間の延長が撤回されたりすることも期待できます。

そのため、こうした試用期間の延長に関するトラブルにおいても労働局の紛争解決援助の手続きを利用して解決を図るというのも対処法の一つとして有効な場合いがあると考えられるのです。

なお、この労働局の手続きについては『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説しています。

(ウ)その他の対処法

これら以外の対処法としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に依頼して裁判所の調停手続きを利用するなどして解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは