契約期間の途中で辞めても損害賠償請求されるとは限らない理由

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アルバイトやパート、契約社員などいわゆる非正規雇用として働く場合、その雇用契約は「〇年〇月から〇年〇月まで」というように一定の期間に限定されたものになるのが一般的です。

このような契約は「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」と呼ばれますが、この有期労働契約で問題となるのが、契約期間の途中で退職したくなったような場合です。

「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」では、労働者はあらかじめ「その契約期間は働きます」ということを約束して雇用契約を結んでいることになりますので、その契約期間が満了する「前」に退職してしまうと雇用契約違反ということになるのが原則です。

もちろん、有期労働契約の契約期間中であっても「やむを得ない事由」がある場合や「契約期間の初日から1年が経過」した場合であれば、民法や労働基準法で契約期間途中での退職が認められていますので、契約違反の責任を負わずに退職することが可能な場合も存在します(詳しくは→ バイトや契約社員が契約期間内でも会社を辞められる3つのケース)。

しかし、有期労働契約における労働者の債務は「契約期間中は労働力を提供すること」ですから、もし仮にそのように法律で特に認められた場合でないにもかかわらず、契約期間途中での退職してしまった場合には、契約に違反して契約期間の途中で退職してしまうこと自体が「雇用契約の債務の本旨に従った履行を怠った」ということになり、民法415条の債務不履行責任を生じさせてしまうでしょう。

【民法第415条.】
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

有期労働契約で契約期間が満了する前に退職してしまうことが債務不履行責任を生じさせるのであれば当然、それによって損害賠償請求がなされることも想定しなければなりませんから、「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者は往々にして「辞めたくても辞めれない」状況に陥ってしまう危険性が高いといえます。

では、実際にこのように「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働くアルバイトやパート、契約社員などの労働者が契約期間の途中で退職してしまう場合、使用者(雇い主)から損害賠償請求される危険はどの程度あるものなのでしょうか?

契約期間が満了する「前」に退職する場合であっても、使用者(雇い主)から損害賠償請求されないことも場合によってはあるものなのでしょうか?

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実際に損害賠償請求されるのはごく稀な場合に限られる

このように、アルバイトやパート、契約社員など「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く場合には、契約期間の途中で退職してしまった場合に使用者(雇い主)から雇用契約違反を理由に債務不履行としての損害賠償請求を受けてしまうのではないかという点が気になるわけですが、結論から言うと実際に損害賠償請求されてしまう可能性はそれほど高くはないでしょう。

なぜなら、先ほども説明したように、有期労働契約の契約期間の途中で退職してしまうと雇用契約違反ということで民法415条の債務不履行責任が発生しますが、それによって生じる損害賠償請求権は「契約期間の途中で辞めたこと」自体によって生じるわけではなく、あくまでもその「契約期間の途中で辞めたことによって生じた損害」について生じるものだからです。

仮に有期労働契約で働くアルバイトやパート、契約社員が契約期間が満了する前に退職したとしても、その退職によって使用者(雇い主)に実際に損害が発生していなければ、使用者は契約に違反して期間満了前に退職してしまった労働者に対して損害賠償請求することはできません。その請求すべき損害が発生していないからです。

また、仮に損害が発生していたとしても、その損害が発生したこと、またその発生した損害の程度(金額)がどれほどの金額になるのかという点は請求を行う使用者側が立証責任を負担することになりますが、それを使用者が客観的証拠を提示して証明することは事実上困難といえます。

それに、仮にそれが可能であってもバイトや契約社員が退職したことによって生じる損害が高額になる可能性は高くないでしょうから、そのような少額の損害を損害賠償すること自体、使用者にとっても負担となりますので損害賠償請求するメリット自体があまりありません。

これらのことを考えれば、有期労働契約で働く労働者が契約期間の途中で退職したとしても、実際に損害賠償請求される蓋然性はそれほど高くないといえます。

ただし、契約期間満了前の退職は損害賠償請求される可能性があると思っておいた方がよい

もっとも、これはあくまでも一般論にすぎませんので、特殊なケースであれば損害賠償請求を受けたしまう可能性も否定できません。

たとえば、最近では非正規労働者として働く契約社員などでも正社員と同様の責任を押し付けられることも多いと聞きますので(責任だけ押し付けて賃金を正社員並みに支払わないことはそもそも問題ですが…)、そのように契約社員が社内の重要なポジションに位置しその契約社員がいなくなることで事業の継続に重要な支障をきたすことがあるような場合では、契約期間が満了する前に退職したことを理由に損害賠償請求がなされないとも限らないでしょう。

ですから、契約期間の途中で退職してしまうことによって損害賠償請求される可能性がゼロではない以上、有期労働契約で働く労働者は損害賠償請求される危険性を考慮したうえで、期間満了前に退職するかしないか判断する必要があるといえます。

仮に損害賠償されないとしても社会常識としては会社と合意の上で退職することが望ましい

以上のように、アルバイトやパート、契約社員など「期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)」で働く労働者が契約期間が満了する前に退職する場合、契約違反の債務不履行責任を根拠に損害賠償請求される危険性はそれほど高いとはいえませんが、その可能性はゼロではないので軽い気持ちで退職することは控えた方がよいかもしれません。

もっとも、仮に損害賠償請求される危険がなかったとしても、有期労働契約の基本は契約期間の満了まで勤めあげるのが原則なのですから、可能な限り契約期間を満了できるよう最大限に配慮することが求められるといえます。