出産後の女性労働者に対する解雇は有効か無効か、その判断基準

ただし、使用者が「天災事変その他やむを得ない事由で事業継続が不可能になった場合」において「労働基準監督署の認定を受けた」場合には、「産後8週間を経過しない」という事実だけでその解雇を無効と判断することはできない

もっとも、これには例外があります。使用者が「天災事変その他やむを得ない事由によって事業継続が不可能となった場合」において「労働基準監督署の認定を受けた」場合です。

先ほど挙げた労働基準法第19条は第1項の但書で「使用者が…(中略)…又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない」と述べたうえで、その第2項で「前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない」と規定していますので、「産後8週間を経過しない女性労働者」に対する解雇が「天災事変その他やむを得ない事由によって事業の継続が不可能となった」ことを理由とするものであり、かつ使用者がその「天災事変その他やむを得ない事由」について「労働基準監督署の認定を受けていた」場合には、その解雇が「産後8週間を経過しない女性労働者」に対するものであったという事実だけでその解雇が「違法な解雇だった」ということはできません。

その「産後8週間を経過しない女性労働者」に対する解雇が「産後8週間を経過しない」という事実だけで「違法な解雇だった」ということができないのであれば、「産後8週間を経過しない」という事実だけで労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」が「なかった」とは言えなくなりますので、他の事情で「客観的合理的な理由」が「ない」と判断されたり「社会通念上の相当性」が「ない」と判断されない限り、「産後8週間を経過しない女性労働者」に対する解雇も必ずしも無効とは判断できないことになります。

ですから、「産後8週間を経過しない」女性労働者に対する解雇は”基本的には”無効と判断して差し支えありませんが、使用者に「天災事変その他やむを得ない事由で事業継続が不可能になった」事情がある場合において、その「天災事変その他やむを得ない事由」について使用者が「労働基準監督署の認定を受けた事実がある」場合には、その解雇は必ずしも無効と言えなくなってしまいますので、その点には注意が必要です。

なお、仮にその使用者に「天災事変その他やむを得ない事由によって事業継続が不可能となった」事実があったとしても、その使用者がその「天災事変その他やむを得ない事由」について「労働基準監督署の認定を受けていない」場合には、原則どおり「産後8週間を経過しない女性労働者」に対する解雇は禁止されますので、その場合における「産後8週間を経過しない女性労働者」に対する解雇は労働基準法第19条によって違法と判断される結果、その解雇は無効と判断されることになります。

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雇用機会均等法第9条4項但書または労働基準法第19条1項但書の規定にかかわらず「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を満たさない解雇は無効

以上で説明したように、出産後間もない期間に女性労働者が解雇された場合であっても、その解雇が「出産後1年を経過しない」時期にされたものであったり、「産後8週間を経過しない」時期にされたものである場合には、一定の要件の下でその解雇が無効と判断される場合があるといえますが、その逆に考えれば加地にそのような解雇であったとしても会社側が「雇用機会均等法第9条3項の規定を理由とする解雇でないことを証明した場合」や「天災事変その他やむを得ない事由によって事業継続が不可能となった場合」において「労働基準監督署の認定を受けた」事実がある場合には、その解雇が有効と判断される余地があるということが言えます。

もっとも、だからといって後者のような場合に必ずしもその解雇が「有効」と判断されるわけではありません。

先ほども少し述べたように、解雇は労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を満たす場合にのみ有効と判断されるものだからです。

労働契約法第16条は解雇に「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求めていますから、その2つのうち一つでも欠けている場合にはその解雇は無効と判断されることになります。

つまり、仮に労働者が解雇されたとしてもその解雇事由に「客観的合理的な理由」が「ない」と認定できればその解雇は無効と判断されることになりますし、仮にその「客観的合理的な理由」が「ある」と認定できるケースであったとしても、その「客観的合理的な理由」に基づいて解雇することが「社会通念上相当」と言えないケースであれば、その解雇はやはり解雇権を濫用するものとして無効と判断されることになるわけです。

ですから、仮に会社側が「雇用機会均等法第9条3項の規定を理由とする解雇でないことを証明」したり、「天災事変その他やむを得ない事由によって事業継続が不可能となった場合」において「労働基準監督署の認定を受けた」としても、必ずしも事実だけをもって「この解雇の無効を主張することはできない」と諦めてしまう必要はなく、その他の事情の中に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を確認することができるかという点を十分に検討してその解雇に対する対処を考えていく必要があります。

出産した女性労働者に対する解雇の判断基準のまとめ

以上で説明してきたように、「出産後1年を経過しない」女性労働者に対する解雇は原則として無効と判断されますが、事業主が「雇用機会均等法第9条3項の規定による事由を理由とする解雇でないことを証明した場合」には必ずしもその「出産後1年を経過しない」という事実だけでその解雇を無効と判断することができない反面、その証明がなされた場合であってもその解雇が「産後8週間を経過しない女性労働者」に対するもので、かつ使用者が「天災事変その他やむを得ない事由によって事業の継続が不可能となった」事情がありその「天災事変その他やむを得ない事由」について「労働基準監督署の認定を受けていない場合」には、その「産後8週間を経過しない女性労働者」に対する解雇については無効と判断することができるということになるものの、その「労働基準監督署の認定を受けた」事実がある場合にはその解雇を必ずしも無効と判断することはできませんが、その場合であっても労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を検討してその要件を満たさなければ、その解雇は解雇権を濫用した無効なものと判断されることもあるということになります。

もっとも、このように文章でつらつら述べてみても分かりにくいと思いますので、最後にもう少し分かりやすくこれをまとめてみることにいたしましょう。

出産後間もない女性労働者に対する解雇

  • 原則その1:「出産後1年を経過しない女性労働者」に対する解雇はその理由にかかわらず無効(雇用機会均等法第9条4項)
  • 「原則その1」の例外:ただし、事業主が「雇用機会均等法第9条3項で規定された事由を理由とする解雇でないことを証明した場合」は無効とはならない(雇用契約法第9条4項但書)。
  • 原則その2:事業主が「雇用機会均等法第9条3項で規定された事由を理由とする解雇でないことを証明した場合」であっても、「産後8週間を経過しない女性労働者」対する解雇はその解雇が違法となるので無効となる(労働基準法第19条1項)。
  • 「原則その2」の例外:ただしその解雇が事業主において「雇用機会均等法第9条3項で規定された事由を理由とする解雇でないことを証明した」うえでの「産後8週間を経過しない女性労働者に対する解雇」であったとしても、その解雇が天災事変その他やむを得ない事由で事業継続が不可能になったことを理由としたもので、使用者が「天災事変その他やむを得ない事由」について労働基準監督署の認定を受けた場合は、その解雇は違法とはならないので、必ずしもその解雇があったことだけをもって無効ということは言えない。
  • 「原則その3」:「原則その1」「原則その2」にかかわらず、解雇事由に労働契約法第16条の「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」のいずれか一方でも欠く場合はその解雇は無効となる。