ウ)障害を持つ労働者は支障っとなっている事情を明らかにすることで足りる
なお、障害を持つ労働者が会社側に職場において支障となっている事情を申し出て必要な配慮を求める場合、その措置の内容を具体的に申し出ることが困難な場合には、その支障となっている事情を明らかにすることで足りるとされています(指針第3-2(1))。
ですから、たとえば車イスを利用する障害者が職場で移動に支障が生じると考える場合において、具体的にどのような場所の改善が必要となるか、勤務形態で具体的にどのような配慮が必要になるかなど具体的に説明できない場合であったとしても「社内を車イスで移動するのに困難が生じている」と説明すれば足り、具体的にどのように改善すべきかまでは申し出る必要はないことになります。
まれに、障害者を雇用した会社において障害を持つ労働者に対して「改善すべき点を具体的に説明しないと会社としては対応できない」などと告知して必要な配慮を怠る事例があるようですが、障害を持つ労働者の側は単にその障害となっている事情を明らかにすることで足りますので、障害を持つ労働者から具体的な措置の内容の申し出がないからと言って必要な対処を取らないこのような会社の態様は違法性を帯びることになるでしょう。
(2)会社は合理的配慮に係る措置の内容に関する話し合いをしなければならない
(1)で述べたように、指針は事業主に障害を持つ労働者が職場で支障となっている事情を確認し、それに対する具体的な措置を行わなければなりませんが、その措置を行う際には必ず当該障害を持つ労働者と話し合いをしなければならないことも指針は義務付けています(指針第3-2(2))。
障害を持つ労働者が職場で支障となっている事情を確認した事業主は、その事業主の側の独自の判断だけで措置をしてはならず、その必要な措置を実施するにあたっては、必ず当該障害者と話し合いの場を設けて意見を聴取し、相談のうえで具体的な措置を講じなければならないわけです。
ですから、車イスを利用する労働者が会社に対して社内の段差の解消を求めた場合において、その障害を持つ労働者に何の相談や確認もせずに会社側が段差解消のための具体的な措置を取ったとしても、会社側の措置は適正なものとはならないことになります。
また、障害を持つ労働者の側は、会社が何の相談の場も設けずに勝手に必要な措置を実施しようとする場合は、自分と相談して具体的な措置を取るように要求することができますし、それに従わない会社側に対してその態様が厚生労働省の指針に違反する違法性を帯びることを指摘することもできるということになります。
(3)事業主は過重な負担にならない範囲で具体的な措置をとらなければならない
(1)および(2)の要領で障害を持つ労働者から職場で支障となっている事情を確認した事業主は、過重な負担にならない範囲で適切な措置を取らなければなりません(※具体的にどのような措置が「過重な負担」となるかについては『採用選考で障害者への合理的配慮が除かれる「過重な負担」とは』のページを参考にしてください)。
この場合、会社側に過重な負担が生じる場合には必ずしも障害を持つ労働者の側から申し出があった措置を取らなくてもよいことになりますが、会社側は過重な負担があるからと言って具体的な措置を取らなくてもよいというわけではなく、当該障害者との話し合いの下、その意向を十分に尊重したうえで過重な負担にならない範囲で合理的配慮に係る措置を講じなければなりません(指針第3-2(3))。
ですから、例えば車イスを利用する労働者が会社側に段差の解消を求めた場合において、会社側がその段差解消の工事が過重な負担になるような場合であっても、その段差解消のための措置を取らなくてもよいというわけではなく、予算的に過重な負担にならない範囲で段差解消のための措置を取らなければなりませんし、段差解消以外の方法で車イスを利用する労働者が職場での移動で支障になっている事情を回避できる場合には、その段差解消のための措置以外の方法を用いてその負担の解消に努めなければならないことになります。
また、障害を持つ労働者が会社に必要な措置を求めたにもかかわらず会社側から「過重な負担となるから措置を取ることができない」と回答された場合には、それが厚生労働省の指針に違反することを説明し、過重な負担にならない範囲で具体的な措置を取るよう求めることも可能でしょう。
なお、会社側で障害者に対する配慮の措置が過重な負担になると判断した場合には、その措置が過重な負担となることで実施できないことを障害を持つ労働者に説明しなければなりませんし、過重な負担とならないもののその措置に一定の期間を必要とする場合には、その時間的猶予が必要なことも説明しなければなりません。
ですから、障害を持つ労働者が会社側から「過重な負担となる」だけの回答を受けてその具体的な説明もなかったり、その措置の実施に一定の時間が必要な事情があるにもかかわらず会社側からその説明が何もなされないような場合には、それが厚生労働省の指針に違反することを指摘して会社側に説明を求めることもできるということになります。
障害者が職場で支障となっている事情の改善を求めたい場合は厚生労働省の指針を一読しておくことも必要
以上で説明したように、厚生労働省の指針は障害を持つ労働者を雇用する事業主に対して過重な負担とならない範囲でその支障となっている事情に対する具体的な措置を実施することや障害を持つ労働者に対する説明義務を規定していますから、それに違反する事業主があればその態様が違法性を帯びることになります。
そのため、一般的なまともな会社であればこの指針に従って適切な対処を取るのが普通ですが、世の中には法令遵守意識の低い会社も少なからず存在しますので、そもそもこの指針の存在すら知らなかったり、指針の存在を知っていても指針に従わず適切な措置を取らない会社も現実には存在します。
ですから、障害を持つ労働者は、この指針を一読するなどして会社側に必要な措置を取らなければならない義務があることを理解し、会社側が厚生労働省の指針にしたがって適切に障害に配慮した必要な措置実施しているか十分に確認することも必要となります。