制服/作業服/安全器具等の更衣/装着時間の賃金が支払われない場合

(2)労働基準監督署に更衣や着脱等の時間が実労働時間に算入されていない事実を相談(申告)してみる

制服や作業着への着替えや安全器具の着脱等の時間が実労働時間に算入されずその時間の賃金(給料)が支払われない場合には、その事実を労働基準監督署に相談(申告)してみるというのも対処法の一つとして有効です。

労働基準法では使用者(個人事業主も含む)に労働基準法違反行為がある場合に労働者がその事実を労働基準監督署に申告することで監督署の監督権の行使を促すことを認めていますが(労働基準法第104条1項)、前述したように制服や作業着への着替えや安全器具の着脱等の時間を実労働時間に参入せずその時間の賃金を支払わない態様も「賃金の全額払いの原則」を規定した労働基準法第24条に違反することになりますので、こうしたケースでもその事実を労働基準監督署に申告して監督権限の行使を促すことが可能です。

【労働基準法第104条1項】

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

そして仮にその申告によって監督署が監督権限を行使し臨検や調査を行い、監督署から出される勧告等に会社(個人事業主も含む)が従う場合には、不当な取り扱いが改善されて制服や作業着への着替えや安全器具の着脱等の時間を実労働時間にしてその時間の賃金を支払うようになることも期待できます。

そのため、こうしたケースでもとりあえず労働基準監督署に申告してみるというのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:東京都〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:東京都〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社○○
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:03-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約※注1
役 職:特になし
職 種:一般事務

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法第24条

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は、〇年〇月〇日に違反者に入社して以降、○○工場にて○○作業員として勤務しているが、同工場では作業着を着用し安全器具を装着することが就業規則で義務付けられている。
・違反者は同工場に勤務する従業員に対して「始業開始までに制服(又は作業着)に更衣し安全器具を着脱すること」と命じ、当該更衣や着脱等の時間を実労働時間に参入せず当該時間の賃金を支払っていない。
・しかしながら最高裁判例(三菱重工業長崎造船所事件:最高裁平成12年3月9日判決)は労働基準法第32条の労働時間について「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」と判示しているから申告者が作業着への着替えや安全器具の着脱等に要した時間も違反者の「指揮命令下に置かれていた」時間として実労働時間に算入し賃金算定の基礎として賃金支払いの対象となるものと言える。
・したがって、当該更衣や着脱等の時間を実労働時間に参入せず当該時間について賃金を支払わない違反者の態様は賃金の全額払いを規定した労働基準法第24条に違反する。

添付書類等
・〇月分のタイムカードの写し…1通※注2
・給与明細書の写し…1通※注2

備考
本件申告をしたことが違反者に知れるとハラスメント等の被害を受ける恐れがあるため違反者には申告者の氏名等を公表しないよう求める。※注3

以上

※注1:アルバイトやパート、契約社員など有期労働契約の場合は「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。

※注2:賃金(給料)の未払い(不払い)を証明する証拠がある場合はその書類等の写し(コピー)を添付してください。写し(コピー)を添付するのは後日裁判などに発展した場合に原本を利用する必要があるからです。労働基準監督署への申告に証拠書類の添付は必ずしも必要ありませんので、証拠がない場合は「特になし」等記載して添付しなくても構いません。

※注3:労働基準監督署に申告したことが会社に知れてしまうと制裁に不当なパワハラ等を受けてしまう危険性もありますので、そうした危険がある場合はこのような文章を記述して会社側に自分の名前を伏せておくように依頼しておきます。会社に申告したことが知られても構わない場合はこの欄は削除しても構いません。

(3)労働局の紛争解決援助の手続きを利用してみる

制服や作業着への着替えや安全器具の着脱等の時間が実労働時間に算入されずその時間の賃金(給料)が支払われない場合には、その事実を労働局に相談(申告)して労働局の主催する紛争解決援助の手続きを利用してみるというのも対処法の一つとして有効です。

労働局では労働者と事業主の間で発生したトラブルの解決を図るための紛争解決援助の手続き用意していますが、こうした着替えや安全器具の着脱等の時間が実労働時間に算入されずにその時間の賃金(給料)を支払ってもらえないというトラブルも労使間の紛争となりますのでこの労働局の紛争解決援助の手続気を利用することが可能です。

この点、この労働局の紛争解決援助の手続きには法的な拘束力がないので会社側が手続きに参加しない場合には解決は望めませんが、会社側が手続きに応じる場合には、労働局から出される助言や指導、あっせん案などに会社が従うことで着替えや安全器具の着脱等の時間を実労働時間に算入することやこれまで支払ってこなかった着替え等の時間の賃金支払いに応じることも期待できます。

そのため、こうしたケースではとりあえず労働局に相談して紛争解決援助の手続きを利用できないか検討してみるのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、労働局の手続きについては『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説しています。

(4)弁護士に相談して示談交渉や訴訟を提起してみる

制服や作業着への着替えや安全器具の着脱等のための時間が実労働時間に算入されずその時間の賃金(給料)を支払ってもらえない場合には、弁護士(請求額が140万円を超えない場合は司法書士でもよい)に相談して示談交渉や訴訟手続きを行ってもらうのももちろん有効です。

また、法律の素人が下手に交渉するとかえって不利になることもあり、前述の(1)などの手段を用いて自分で交渉するよりも最初から弁護士等に相談する方が迅速に解決するケースもありますので、万全を期して早めに弁護士に相談する方事を考えても良いかもしれません。

なお、弁護士等に相談する場合の詳細は『弁護士・司法書士に依頼して裁判をする方法』のページで詳しく解説しています。

(5)その他の対処法

これら以外の方法としては、各自治体の提供する相談やあっせん手続きを利用したり、各地方の労働委員会が主催するあっせん手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会などが提供するADR手続きを利用したりする方法が考えられます。

なお、それら他の手続きについては『労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは』のページでまとめていますので参考にしてください。