会社が経営難に陥ってコストカットの必要性に迫られた場合、リストラ策の一環として人員削減の措置を採ることがあります。
この人員削減の手段としては希望退職者の募集などが代表的ですが、それでも削減目標に足らない場合には労働者を強制的に解雇してしまう整理解雇に踏み切ることも少なくありません。
整理解雇は当然、その対象者を解雇して強制的に退職させることを意味しますから、その対象者となる労働者にとっては不利益の大きい経営判断となります。
そのため、一般的な企業では整理解雇が必要になった場合であっても、その対象になった労働者に一方的に解雇を通告するようなことはせず、あらかじめ個人面談などを行い人員削減の必要性や解雇人員の選定基準、あるいは解雇した場合の補償などについて説明を行い労働者の理解を得たうえで解雇の通告を行うのが普通です。
しかし、労働者の不利益を最小限に抑えようと配慮してくれる会社ばかりではありませんから、中にはそのような説明や事前協議を行うことなく、ある日突然労働者に対して解雇予告通知を行い半ば強制的に整理解雇を実施してしまう会社があるのも現実です。
では、そのように事前協議や事前説明が全くない状態で、あるいは事前協議や事前説明があってもそれが不十分で納得できない状態にあるにもかかわらず、半ば強制的に整理解雇を言い渡されてしまった場合、それを拒否することはできないのでしょうか。
また、そのように事前協議や事前説明がなかったり不十分なまま整理解雇が行われた場合、具体的にどのように対処すれば自身の保護を図ることができるのでしょうか。
事前協議や事前説明が不十分な状態でなされた整理解雇は無効
このように、不況や経営不振の影響で会社がリストラを実施し人員削減の必要性から整理解雇を行うことがありますが、そのような整理解雇が実施された場合において事前協議や事前説明が一切なされなかったり、それがなされても内容が不十分なまま強引に整理解雇を言い渡された場合、その解雇の処分は「無効」と判断されるのが通常です。
なぜなら、事前協議や事前説明がなされずに、またはそれが不十分なまま整理解雇が行われた場合、その解雇に「社会通念上の相当性」がないと評価される結果、その解雇自体が会社の解雇権を濫用した不当な行為と判断されることになるからです。
労働者が勤務先の会社から整理解雇を命じられた場合、労働者がその解雇の効力を争いたいと考える場合はその整理解雇の有効性を検討しなければなりませんが、整理解雇も「解雇」である以上、その有効性は解雇の判断基準を規定した労働契約法第16条によって判断することが必要となります。
この点、労働契約法第16条では以下に挙げるように「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件が必要とされていますから、仮にそのどちらか一方でも整理解雇が行われた際の事情に欠けている場合には、その整理解雇は無効と判断されることになります。
【労働契約法第16条】
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
そうすると、会社から整理解雇を言い渡された場合には、この「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つを満たす事情があったかという点を検討する必要があるのですが、この「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件の判断は、過去の判例の積み重ねから「整理解雇の四要件(四要素)」を基準に判断する考え方が定着しています。
すなわち、整理解雇を受けた場合には、「整理解雇の四要件(四要素)」に挙げられる4つの要件(要素)を全て満たす事情があった場合にだけその解雇が有効と判断され、その4つのうち一つでも欠けている事情がある場合には、その解雇は無効と判断されることになるのです。
ところで、この「整理解雇の四要件(四要素)」は以下に挙げる4つの要件(要素)で構成されていますが、その中には「説明協議義務」も挙げられています。
- 人員削減の必要性があったか(人員削減の必要性)
- 解雇回避のための努力は行われたか(解雇回避努力義務)
- 人選に合理性はあるか(人選の合理性)
- 対象者への協議や説明は尽くされているか(説明協議義務)
とすると、たとえ会社が人員削減の必要性から整理解雇を行った場合であっても、その整理解雇を言い渡す際に労働者への説明や協議が行われていなかったり、行われてもそれが不十分であったような場合には、その整理解雇自体が「整理解雇の四要件(四要素)」を満たさないものとして評価されることになるでしょう。
整理解雇されることは労働者にとって不利益が大きく、事前の説明や協議が不十分なまま解雇されてしまうことは常識的に考えて労働者に負担が大きいと考えられますので、世間一般人の常識的な見解で考えれば、事前の説明や協議が行われて当然と言えるからです。
そうすると、仮に事前の説明や協議がなされなかったり不十分なまま整理解雇されてしまった場合には、その「説明協議義務」が尽くされていない状態で解雇されてしまったという事実が「社会通念上の相当性がない」と判断されることになりますので、その解雇自体が会社の解雇権を濫用したものと評価されることになります。
このような理屈から、事前の説明や協議が不十分な状態で行われた整理解雇は「無効」と判断されることになるわけです。
説明協議義務が尽くされていない整理解雇の具体例
このように、たとえ人員削減の必要性から整理解雇を命じられた場合であっても、解雇を言い渡される前に解雇に至った事情や人選の基準などについてあらかじめ説明や協議が尽くされていない場合には、その整理解雇の無効を主張して撤回を求めることも可能です。
もっとも、「説明や協議」とは言っても、具体的にどのような事情があれば「説明協議義務が尽くされていない」と言えるのかはケースバイケースで判断するしかありません。
ただし、以下のようなケースでは、「説明協議義務が尽くされていない」と判断して差し支えないと思います。
(ア)事前の説明や協議が一切ない状況である日突然整理解雇を命じられた場合
「説明協議義務が尽くされていない」と言える代表的なケースは、事前の説明や協議が一切行われていない状況で、ある日突然上司などから解雇を言い渡されたり解雇予告通知を辞令として出されるようなケースです。
このようなケースでは、説明協議義務がまったく尽くされていませんので、その状態で解雇を強制されることは「社会通念上の相当性」があるとは到底言えませんから、解雇権を濫用した無効な解雇通知と考えて差し支えないのではないかと思います。
(イ)人員削減の必要性や解雇要員として選定された人選基準などについて納得できる説明がなされていない場合
解雇を通知される前に人員削減の必要性や解雇対象者として人選された基準などの説明がなされていた場合であっても、その説明が納得できるものでなかった場合には「説明義務が尽くされた」とは言えません。
整理解雇の場合に必要とされる「説明義務」は単に会社がその解雇に至った事情や人選基準を「説明すること」を要求しているわけではなく、その説明の内容についても合理性があるものを要求しているからです。
たとえば、会社が「売り上げが減って人員削減の必要性が生じたんだ」と説明したとしても、具体的にどの程度売り上げが減り、どの程度コスト削減の必要性が生じて、どの程度の人数の削減が必要になり、どのような人選基準を用いて自分が解雇要員として選定されたのか、という点を合理的に説明できなければ、会社は「説明義務を果たした」とは言えないでしょう。
ですから、会社が合理的な説明をせず、抽象的であったり具体性のない説明に終始する場合には「説明義務が果たされていない」と判断して差し支えないと思います。
(ウ)協議が不十分なまま整理解雇がなされた場合
また、会社から事前の協議が行われていたとしても、その協議の内容が不十分であったり、解雇に代わる補償等の内容が社会通念から考えて妥当なものだと言えない事情がある場合にも「協議義務が尽くされていない」と判断されることがあります。
たとえば、解雇が仕方ない状況にあったとしても、解雇された後の再就職先の紹介が不十分であったり、解雇の補償となるような退職金や一時金の支給が不十分であったり他の退職者と不公平な部分がある場合には、その協議自体が不十分なものとして「協議義務が尽くされていない」と判断される可能性はあり得ると思います。