会社が不況や経営不振を理由に労働者を解雇することは「整理解雇」と呼ばれています。
この整理解雇も解雇である以上、その有効性の判断は労働契約法第16条の解雇規定によって判断されることになります。
【労働契約法第16条】
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
すなわち、不況や経営不振という理由で労働者を解雇することに「客観的合理的な理由」があり、かつ、その理由を基に解雇することに「社会通念上の相当性」があると判断できる場合に限って、その整理解雇が有効と判断されることになるわけです。
この「客観的合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の有無は事案ごとにケースバイケースで判断するしかありませんが、不況や経営不振を理由に行われる「整理解雇」の事案では過去の判例の積み重ねによって「整理解雇の四要件(四要素)」という基準で判断する考え方が定着しています。すなわち、
- 人員削減の必要性があったか(人員削減の必要性)
- 解雇回避のための努力は行われたか(解雇回避努力義務)
- 人選に合理性はあるか(人選の合理性)
- 対象者への協議や説明は尽くされているか(説明協議義務)
の四つの要件(四要素)をすべて満たす場合にだけその解雇が有効と判断され、この4つのうち一つでも欠けている場合は、その解雇は「無効」と判断するのが法律的な考え方として定着しているわけです。
では、その「整理解雇の四要件(四要素)」の有無の判断は、具体的にどのような点に注意して確認すればよいのでしょうか。
「整理解雇の四要件(四要素)」の判断基準
このように、採用内定の取り消しが有効か無効かの判断は「整理解雇の四要件(四要素)」の4つをすべて満たす事情が存在するかという点で決められることになります。
この「整理解雇の四要件(四要素)」のそれぞれの要件(要素)は以下のような事情の有無を確認して判断することができると思います。
(1)人員削減の必要性があったか(人員削減の必要性)
人員削減の必要性は、その会社で本当に人員を削減しなければならない経営上の理由が発生しているのかという点で確認します。
具体的には以下のような事情があれば「人員削減の必要性がなかった」という方向で判断されるバイアスが高くなると言えます。
- そもそも経営不振などの影響がないのに整理解雇が行われている場合(経営が傾いている状況がそもそもないのであれば解雇する必要性自体ないから)
- 従業員の募集を行っている場合(※労働者を募集をしてるなら逆に人員を増加してることになるから)
- 整理解雇された後に人員が補充されている場合(整理解雇された後に代わりとして人員を配置するのであれば、そもそも解雇しなければよいだけだから)
- リストラに必要な人員以上の整理解雇がなされている場合(たとえば、5人だけリストラすれば経営は安定するのに10人の労働者を整理解雇している場合)
- 事業規模の拡大などが行われている場合(事業の拡大、他業種への進出などが行われているのであれば、配転などの人事異動で対処すれば済む話であって解雇する必要性に乏しいから)
以上はあくまでも代表的な例に過ぎません。これら以外にも個別の案件ごとに判断して「人員削減の必要性はない」と判断されるケースはあると思いますので、具体的な案件では弁護士に相談するなどして助言を受けることも必要です。
(2)解雇回避のための努力は行われたか(解雇回避努力義務)
解雇回避努力義務については、その会社で解雇を回避するための努力が行われたかという点で判断されます。
解雇を回避するための努力が一切なされていなかったり、なされていたとしてもその程度が不十分な場合には、まずその努力を行うことで解雇を回避し労働者の保護を図らなければならないからです。
具体的には、以下のような事情があれば「解雇回避努力義務を怠っている」としてその整理解雇は無効と判断される可能性が高くなると言えます。
- 役員報酬や賞与のカットがなされていない(人件費を減らしたいならまず役員報酬や賞与のカットなどで対応すべきで、それで済むなら解雇は必要ないから)
- 遊休資産の売却や不採算事業からの撤退が行われていない(経営が傾いているなら人員削減よりもまず遊休資産や不採算事業のリストラを先にすべきだから)
- 解雇より前に希望退職者の募集が実施されてない(希望退職者を募集して退職希望者を優先的に退職させればそもそも解雇は必要ないから)
- 配転や転籍、出向など人事異動手段を用いて解雇を回避できるのにそれがなされていない(配転や転籍、出向などで余剰人員を活用できるのであれば解雇する必要がないから)
以上もあくまでも代表的な例に過ぎません。これら以外にも個別の案件ごとに判断して「解雇回避努力義務が誠実に履行されていない」と判断されるケースはあると思いますので、具体的な案件では弁護士に相談するなどして助言を受けることも必要です。
(3)人選に合理性はあるか(人選の合理性)
人選に合理性がない場合もその整理解雇は無効と判断されます。仮に人員削減の必要性があり整理解雇が必要であったとしても、その解雇は合理的な人選の範囲内で認められるにすぎないからです。
合理的な理由のない人選を認めてしまえば労働者間の差別を助長したり、不当解雇の一手段として利用される恐れもあるので人選に合理性のない整理解雇は無効と判断されることになります。
たとえば、以下のような事情があれば「人選に合理性がない」としてその整理解雇は無効と判断される可能性が高くなると言えます。
- 勤務成績や就業実態など合理的な評価で人選がなされていた場合であっても、その人選に合理性があったということを会社側が客観的に説明できない場合(仮に会社側が合理性のある人選を行っていたとしても、その人選の経緯を客観的に説明できない場合は「人選に合理性がない」と判断されるケースが多いようです)
- 星座や血液型、性別や人種、性的志向、支持政党、宗教などその労働者の能力や適性に関係のない基準で整理解雇の対象者として人選された場合
ただし、以上もあくまでも代表的な例に過ぎません。これら以外にも個別の案件ごとに判断して「人選に合理性がない」と判断されるケースはあると思いますので、具体的な案件では弁護士に相談するなどして助言を受けることも必要です。
(4)対象者への協議や説明は尽くされているか(説明協議義務)
整理解雇の対象者となる労働者に事前の説明や解雇に対する補償などの協議が行われていない場合もその整理解雇は無効と判断されます。
上記の(1)~(3)の要件をすべて満たしている場合であっても、整理解雇によって退職を強制させられる労働者は職を失うことになり大きな不利益を受けてしまいますので、その労働者の不利益を最小限に抑えるために協議や説明の場を設けなければその解雇は「社会通念上の相当性がある」とは言えないからです。
ですから、たとえば事前の協議や説明もなくある日いきなり「業績が悪化したから、〇月〇日付で退職してもらうから」といわれて整理解雇されてしまったような場合であれば、まずその解雇は無効と判断されるでしょう。
なお、その他にも、以下のような事情があれば「説明協議義務が尽くされていない」としてその整理解雇は無効と判断される可能性が高くなると言えます。
- 整理解雇に関する事前の説明はあったが、「人員削減の必要」や「解雇回避努力義務」「人選の合理性」に関する具体的な説明がなされていなかった場合
- 整理解雇に関する事前の説明はあったが、解雇対象者となる労働者からの疑問に誠実に答えてもらえなかった場合
- 整理解雇後の他の就職先の紹介もされず、退職金の上乗せや解雇に対する補償金の支給など、その解雇の対象となる労働者へのケアが全くなされていない、またはそのケアが不十分である場合
ただし、以上もあくまでも代表的な例に過ぎません。これら以外にも個別の案件ごとに判断して「説明協議義務が尽くされていない」と判断されるケースはあると思いますので、具体的な案件では弁護士に相談するなどして助言を受けることも必要です。
「整理解雇の四要件(四要素)」をチェックする上で気を付ける点
整理解雇の四要件(四要素)の具体的な内容を簡単に説明すると以上ですが、以下の2つの点には留意するようにしてください。
ア)整理解雇の四要件(四要素)は4つのうち一つでも満たさなければ無効になるということ
整理解雇の四要件(四要素)をチェックする際に重要なのは、あくまでもその4要件(4要素)のすべてを満たす整理解雇の事案だけが有効と判断されるということです。
4つの要件(要素)のうち一つでも満たさない事項があれば、それだけでその整理解雇は無効と判断できますので、その点を間違えないようにしてください。
たとえば、「人員削減の必要性(※上記の(1))」と「人選の合理性(※上記の(3))」と「説明協議義務(※上記の(4))」の3つがすべて誠実に行われていたとしても、会社の方で「解雇回避努力義務(※上記の(2))」が一切行われていなかったり行われていても不十分である場合には、ただそれだけでその整理解雇は無効と判断されることになります。
上記の整理解雇の四要件(四要素)のうち、仮に一つや二つ誠実に履行されている場合であっても、それだけで解雇が有効だと短絡的に判断するのではなく、他の要件(要素)は満たされているかという点を十分に検討するようにしてください。
イ)弁護士の助言を受けること
上記で紹介した整理解雇の四要件(四要素)は労働事件に詳しい弁護士でないと判断が難しい面もありますので、上記の内容はあくまでも参考までにとどめ、実際に整理解雇を受けて会社と解雇の効力を争いたい場合は、弁護士に相談して助言を受けた方がよいかもしれません。
弁護士に相談するといっても、何もその場ですぐに事件処理を依頼する必要はなく、整理解雇の四要件(四要素)に当てはまる事案かなどを簡単に聞いてみるだけでも構いません。相談だけなら30分5,000円程度で済みますので経済的負担もそれほどないでしょう。
整理解雇が行われた場合にそれを受け入れて退職するのももちろん構いませんが、事案によっては解雇の無効を主張して会社に残ることができたり、退職しなければならないにしても補償等の金銭の支払いを受けて転職活動の資金として活用できるケースもありますので、整理解雇に納得できないケースであれば、弁護士に相談してみることをお勧めします。