タイムカード等で出勤/退社/労働時間を記録しない会社の対処法

労働者の賃金は何時から何時まで働いたかという出退勤記録に基づいて計算されるのが基本です。

そのため、ほとんどの会社ではタイムカードや磁気カード(ICカード)、パソコンの利用時間などを利用して労働者の出退勤時刻を記録していますが、中小企業などの一部では出退勤記録を全くつけていない会社もあるようです。

しかし、出退勤記録が付けられていない会社ではどうしても労働時間の管理自体が杜撰になるのは避けられませんから、そういった会社では必然的に労働者が残業代の不払いなど賃金に関する労働トラブルに巻き込まれてしまう確率も高くなってしまい、労働者が不要な不利益を受けてしまわないとも限りません。

では、もし仮に自分が勤務している会社が出勤時間や退社時刻を管理しないような会社であった場合、具体的にどのようにすれば会社に出退勤記録を付けさせることができるのでしょうか?

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出勤及び退社時刻を管理・記録しない会社は違法

労働者の出勤・退社時刻を記録しない会社にその記録をさせる方法を考える前提として、そもそもその出退勤時刻を記録しないことが法律に違反しないのかという点を考える必要があります。

仮にその出退勤記録を付けないということ自体が法律に違反するのであれば、その違法性を指摘して会社に出退勤記録を付けるよう求めることも可能だからです。

この点、結論から言うと、使用者(雇い主)が労働者の出勤時刻や退社時刻、労働時間を管理せず、またその時間を記録しない場合、それ自体が法律違反となります。

なぜなら、労働基準法では「労働時間」や「休日」「深夜労働」など労働者の労働時間を把握することが前提となる条文が規定されており、その労働者の労働時間に係る記録も賃金台帳として保存することが義務付けられているからです。

労働基準法では第三章及び第四章において、労働者の労働時間や休日、深夜労働等について使用者(雇い主)が遵守しなければならない事項を規定し、その記録についても108条・109条・同法施行規則54条において3年間保存することが義務付けられていますから、使用者に労働者の労働時間を管理・記録する義務があることは労働基準法の条文上明らかと言えます。

【労働基準法108条】

使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。

【労働基準法施行規則54条】

使用者は、法第108条の規定によって、次に掲げる事項を労働者各人別に賃金台帳に記入しなければならない。
第1号~3号(省略)
第4号 労働日数
第5号 労働時間数
第6号 (省略)労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合(省略)には、その延長時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数
第7号(以下省略)

【労働基準法109条】

使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない。

ですから、使用者(雇い主)が労働者の労働時間を正確に把握して管理・記録することは労働基準法上の当然の義務として使用者(雇い主)を拘束しているものと解釈されるのです。

ですから、仮に使用者(雇い主)がその義務を怠り、労働者の出退勤時間を記録していない場合には、それ自体が労働基準法違反ということになります。

出勤及び退社時刻を管理・記録しない会社に出退勤記録を付けさせる方法

以上で説明したように、労働基準法では使用者(雇い主)に対して労働者の出勤時刻と退社時刻、労働者の労働時間を把握し記録することを義務付けていますから、その記録を取っていない会社は労働基準法違反となります。

この点、使用者(雇い主)が具体的にどのようにな方法をもって出退勤記録を付けておかなければならないかという点が問題となりますが、厚生労働省のガイドライン(基発0120第3号平成29年1月20日)では、使用者自らがすべての労働時間を現認する場合を除いて「タイムカード」「ICカード」「パソコンの使用時間の記録」などの方法を用いて管理することを求めていますので、通常はその3つのうちいずれかの方法で出退勤記録を管理しなければならないということになるでしょう。

【使用者が労働者の出勤・退社時刻を記録する方法】

  • タイムカード
  • ICカード
  • パソコンの使用時間の記録

ですから、自分が勤務している会社で上記3つのうちいずれの方法でも労働者の出勤・退社時刻が記録されていないというのであれば、それ自体が厚生労働省のガイドラインに違反する行為となり、労働基準法違反ということが言えることになります。

出勤及び退社時刻を管理・記録しない会社に出退勤記録を付けさせる方法

以上で説明したように、使用者(雇い主)はその雇用する労働者の出勤・退社時刻および労働時間を「タイムカード」「ICカード」「パソコンの使用時間の記録」などの方法を用いて管理・記録することが労働基準法上当然に求められていると言えますので、仮にそれがなされていない場合には、労働者は使用者(雇い主)に対して労働基準法に違反することを理由に、出退勤および就労時間を記録し管理するよう求めることもできる、ということになります。

この場合、具体的にどのような方法を用いて会社に出勤・退社時刻や実際の労働時間を記録するよう求めればよいかが問題となりますが、一般的には次の(1)~(3)の方法を用いて対処することになるかと思います。

(1)出勤・退社時刻を記録するよう求める申入書を会社に送付する

会社が労働基準法の趣旨に違反して労働者の出勤・退社時刻や労働時間を記録していない場合には、まずその記録を行うよう求める申入書等を作成し、会社に送付することを考えたほうがよいと思います。

もちろん、最初は口頭で「労働者の出勤・退社時刻と労働時間を正確に記録してください」と申告することも必要ですが、そう頼んでも応じない会社の経営者や上司に口頭でいくら頼んでも従うとは思えませんし、仮に後で何らかの労働トラブルに巻き込まれ裁判になったような場合には、「会社に労働時間の記録をするよう求めても応じてもらえなかった」という点を証拠を提示して立証することも必要になりますので、有体物として証拠を残すことのできる「書面」という形で申入れしておいた方がよいでしょう。

送付した書面をコピーして保存し、特例記録郵便など送付記録の残る郵送方法で通知しておけば、後でそのコピーと送付記録を添付することで「会社は労働時間を故意に記録していないことを認識していた」という事実を客観的証拠を提示し立証できるようになり裁判を有利に進めることもできますので口頭だけでなく書面という形でも申入れしておいた方がよいと思います。

なお、その場合に送付する書面の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

株式会社○○

代表取締役 ○○ ○○ 殿

労働時間の適切な管理申入書

私は、〇年〇月ごろより、貴社に対して、労働者の出勤・退勤時刻およびその実労働時間をタイムカードなどの方法を用いて適切に管理・記録するよう求めておりますが、貴社はいまだに労働者の労働時間を管理・記録するために必要となる適切な措置を講じておりません。

しかしながら、労働基準法には労働時間、休日、時間外労働等について使用者が遵守すべき規定だけでなく(労働基準法第3章ないし第4章)、労働者の労働時間が記載された賃金台帳を作成し保存することも定められていますから(同法108条ないし109条)、使用者が労働者の出退勤時間及び労働時間を把握・管理し記録することは労働基準法で義務付けられた法律上の義務と言えます。

この点、厚生労働省のガイドライン(平成29年1月20日付基発0120第3号)においても、使用者には「タイムカード」「ICカード」「パソコンの使用時間の記録」などの方法を用いて労働時間を管理することが求められていますから、貴社がこれらいずれの方法も用いることなく労働者の労働時間を管理しない現状は明らかに労働基準法に違反しています。

よって私は、改めて貴社に対し、厚生労働省のガイドラインに沿った方法による労働時間の管理を徹底するよう、本状をもって改めて申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※なお、実際に送付する際は客観的証拠として保存しておくためコピーを取ったうえで、会社に送付されたという記録が残るよう普通郵便ではなく特定記録郵便などを利用するようにしてください。

(2)労働基準監督署に労働基準法違反の申告をする

(1)の申入書等を送付しても会社がタイムカード等による労働時間の管理に応じない場合は、労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行うというのも対処方法の一つとして有効です。

先ほども説明したように、使用者が労働者の出退勤時間や労働時間をタイムカードなど客観的証拠の残される形で管理・記録しなければならないことは労働基準法当然の義務であり、厚生労働省のガイドラインなどでもそれに必要な措置を講じることが求められていますので、会社(個人事業主も含む)がタイムカードなどを用いて労働者の労働時間を管理・記録しない場合は「労働基準法違反」ということになりますが、使用者が労働基準法に違反している場合には労働者は労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行うことが認められています(労働基準法104条1項)。

【労働基準法第104条1項】
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

この点、仮に労働者が労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行い、監督署が監督権限を行使して是正勧告や指導を行えば、会社がその違反状態を改めて厚労省のガイドラインに沿った形で労働時間を管理・記録することも期待できますので、監督署に違法行為の申告をするというのも解決手段の一つとして有効に機能するものと考えられます。

なお、その場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載例は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:東京都〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:東京都〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社○○
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:03-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約←注1
役 職:特になし
職 種:一般事務

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法108条及び109条、平成29年1月20日付基発0120第3号

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・違反者は、厚生労働省のガイドライン(平成29年1月20日付基発0120第3号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインについて 」)に違反して、その雇用する労働者の出勤・退社時刻および実労働時間等の労働時間についてタイムカード等を用いた方法による管理・記録を一切行っていない。

添付書類等

・特になし。←注2

備考
本件申告をしたことが違反者に知れるとハラスメント等の被害を受ける恐れがあるため違反者には申告者の氏名等を公表しないよう求める。

以上

※注1:アルバイトやパート契約社員など「期間の定めのある雇用契約」の場合は「期間の定めのある雇用契約(アルバイト)」と記載してください。

※注2:会社が労働時間を記録していない証拠があれば添付してください。

※労働基準監督署に申告したことが会社にバレても構わない場合は、「備考」の欄の一文は削除しても構いません。

(3)その他の対処法

上記(1)(2)の方法を用いても解決しない場合は、労働局の紛争解決援助の申し立てを行ったり、労働委員会の主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士や司法書士に相談して裁判所の裁判手続などを利用して解決する必要がありますが、それらの方法については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは