有給休暇の取得を理由にした賞与や皆勤手当の減額は許されるか

なお、この場合に会社に郵送する書面の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

有給休暇の取得に関する賃金等の算定における不利益取り扱いの撤回申入書

私は昨年度、有給休暇を取得した日数を除き、すべての出勤日に出勤いたしましたが、貴社から皆勤手当ての支払いを受けておりません。

この皆勤手当ての不支給に関して貴社に確認したところ、私が昨年度において付与された年次有給休暇10日間を取得し、10日間の有給休暇を消化した事実があることから皆勤手当ての支給要件を満たさないのでその対象から除外した旨の説明を受けました。

しかしながら、労働基準法第136条は「有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしないようにしなければならない」と規定していますから、貴社のこのような取り扱いは同法の趣旨に反して違法性を帯びることになると解されます。

また、過去の最高裁の判例によれば、使用者に対して年次有給休暇の期間について一定の賃金の支払を義務付けている労働基準法39条4項の規定の趣旨からすれば、使用者は、年次休暇の取得日の属する期間に対応する賞与や皆勤手当てなどの計算上この日を欠勤として扱うことはできないとされていますし(エス・ウント・エー事件:最高裁平成4年2月18日判決に同旨)、こうした取り扱いは労働基準法第39条が保障した年次有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に当該権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものであって公序に反するとも判示されています(沼津交通事件(最高裁平成5年6月25日判決に同旨)。

したがって、貴社が皆勤手当ての算定に関して、私が年次有給休暇を取得したことを理由にその対象から除外したことは、明らかに違法と言えますから直ちにその取扱いを撤回するとともに、皆勤手当てを支払うよう申し入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※実際に郵送する場合は会社に到達した事実を証拠として残しておけるように配達記録の残る特定記録郵便などの郵送方法を利用して送付してください。

(2)労働基準監督署に違法行為の申告を行ってみる

有給休暇を取得したことを理由に賃金やボーナス(賞与)あるいは皆勤手当ての算定で欠勤扱い等の不利益な取り扱いを受けて減額や不支給がなされた場合、その事実を労働基準監督署に相談(申告)して監督権限の行使を促してみるというのも対処法の一つとして有効と考えられます。

労働基準法第104条1項は労働基準法に違反した使用者がある場合に労働者から労働基準監督署にその事実を申告することで監督権限の行使を求めることを認めていますから、こうした不利益取り扱いがなされた場合にも、労働基準法第136条に違反するものとしてその事実を労働基準監督署に申告し監督権限の行使を促すことが可能です。

【労働基準法第104条1項】

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

仮にその申告によって労働基準監督署が調査や臨検を行い、勧告等が出されて会社側(個人事業主も含む)がそれに従う場合には、違法な不利益取り扱いが撤回されることも期待できます。

そのため、こうしたケースでも労働基準監督署に違法行為の申告をすることで問題解決につながる場合があると考えられるのです。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:東京都〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:東京都〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社 甲
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:03-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約(←注1)
役 職:特になし
職 種:一般事務

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法136条

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・違反者就業規則所定の勤務日数を出勤した従業員に皆勤手当てを支給することにしているが、違反者は申告者が昨年度に10日間の年次有給休暇を取得ことを理由に、当該有給休暇の消化が皆勤手当ての算定で欠勤扱いになることを理由に皆勤手当てを支払わない。
・このような違反者の行為は「有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしないようにしなければならない」と規定した労働基準法第136条に違反する。
・なお、使用者に対して年次有給休暇の期間について一定の賃金の支払を義務付けている労働基準法39条4項の規定の趣旨からすれば、使用者は年次休暇の取得日の属する期間に対応する賞与や皆勤手当てなどの計算上この日を欠勤として扱うことはできないと考えるべきであるし(エス・ウント・エー事件:最高裁平成4年2月18日判決に同旨)、こうした不利益取り扱いは労働基準法第39条が保障した年次有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に当該権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものであって公序に反すると言える(沼津交通事件(最高裁平成5年6月25日判決に同旨)。

添付書類等
・特になし

備考
違反者または出向先の株式会社乙に本件申告を行ったことが知れると、出向先の乙社または出向期間が満了した後の違反者(甲社)で不当な扱いを受ける恐れがあるため、違反者および出向先の乙社には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。(←注3)

以上

※注1:パートやアルバイト、契約社員など期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の場合は「期間の定めのある雇用契約」などと記載してください。

※注2:会社の労働基準法違反行為の事実を証明できる証拠等があれば記載して添付してください。もっとも労働基準監督署への違法行為の申告に添付書類や証拠の提出は必ずしも必須ではないので添付できる書類等がなければ「特になし」としても構いません。

※注3:労働基準監督署に違法行為の申告を行って調査や臨検がなされると、その報復にパワハラなどの制裁を加えてくる会社もありますので、そうした心配がある場合はこのような一文を挿入して自分が労基署に申告したことを伏せておくように求めておく方が無難です。自分が違法行為の申告をしたことが会社に知られても構わない場合は備考の欄は削除しても構いません。

(3)労働局の紛争解決援助の手続きを利用してみる

有給休暇を取得したことを理由に賃金やボーナス(賞与)あるいは皆勤手当ての算定で欠勤扱い等の不利益な取り扱いを受けて減額や不支給がなされた場合、その事実を労働局に相談(申告)して労働局が主催する紛争解決援助の手続きを利用してみるというのも一つの方法です。

労働局では労働者と事業主の間で発生したトラブルの解決を図る紛争解決援助の手続きを用意していますが、有給休暇を取得したことを理由に賃金等の算定で不利益な取り扱いをしたことによって生じたトラブルについてもこの紛争解決援助の手続きが使えます。

この点、この労働局の紛争解決援助の手続きに法的な強制力はありませんので会社側が手続きに応じない場合には解決は望めませんが、会社側が手続きに応じるケースでは労働局から出される助言や指導、あっせん案に会社が従うことで違法な取り扱いが撤回されることも期待できます。

そのためこうしたケースでも、とりあえず労働局に相談して紛争解決援助の手続きを使えないか検討してみるのも対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、この労働局の手続きについては『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説しています。

(4)その他の対処法

これら以外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは