災害などによる解雇で解雇予告手当が支払われない場合の対処法

(2)労働基準監督署の認定がない状態で解雇予告手当を支払わないことが違法であることを書面で通知する

会社が労働基準監督署の認定を受けていないことが確認できる場合は、会社に対して書面で労働基準監督署の認定を受けない状態で解雇予告手当を支払わずに即日解雇することが労働基準法第20条に違反することを記載した書面を作成し、会社に送付するというのも一つの対処法として有効です。

労働基準監督署の認定を受けていないにもかかわらず解雇予告手当を支払わずに即日解雇した会社に対して、口頭で「監督署の認定を受けていないのに解雇予告手当を支払わないのは労基法20条違反だ」と指摘してももちろん良いですが、口頭で抗議してもたいていの場合は無視されるかもしれません。

しかし書面という形で正式に抗議すれば、将来的な裁判や行政機関への相談などを警戒して解雇予告手当の支払いに応じてもらえる可能性も期待できるので、書面で通知する方法も効果があると考えられるのです。

なお、その場合に会社に送付する通知書の文面は以下のようなもので差し支えないと思います。

甲 株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

労働基準法第20条第3項で準用する同法第19条第2項の認定に関する申入書

私は、〇年6月30日、貴社から、事前の予告および労働基準法第20条第1項で義務付けられた30日分の平均賃金の支払いもないまま、同日付で解雇する旨の通知を受け、即日に解雇されました。

この解雇につき、貴社からは、先日発生した地震の影響で事業の継続が不可能になったことからやむを得ず解雇に至ったこと、また労働基準法第20条第1項但書に該当することから予告期間を置かず、かつ30日分の平均賃金を支払うことなく即日解雇したことに法的な問題はない旨の説明を口頭で受けました。

しかしながら、労働基準法第20条第1項但書に基づいて解雇の予告を省略する場合また平均賃金の支払いをしない場合には、使用者は「天災事変その他やむを得ない事由」があったことについて同条第3項が準用する同法第19条第2項の労働基準監督署の認定を受けなければなりませんが、私が確認した限り、貴社がその認定を受けた事実はありません。

したがって、貴社は労働基準法第20条第3条に違反して、行政官庁の認定を受けないまま、30日の予告期間を置かず、また30日分の平均賃金の支払いをしないまま解雇したことになりますから、ただちに労働基準法第20条所定の平均賃金を支払うよう、請求いたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

※送付した事実を証拠として残しておくため、コピーを取ったうえで、特定記録郵便など配達記録の残る郵送方法で郵送するようにしてください。

(3)労働基準監督署に違法行為の申告を行う

「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった」ことを理由に即日解雇された場合に、会社が労働基準監督署の認定を受けていないにもかかわらず、解雇予告手当の支払いにも応じない場合には、労働基準監督署に違法行為の申告を行うというのも対処法として有効です。

先ほど説明したように、使用者が「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった」ことを理由に労働者を解雇する際に解雇予告手当を支払わない場合には、必ず労働基準監督署の認定を受けなければなりませんから、その認定を受けずに解雇予告手当を支払わずに即日解雇したというのであれば、それは労働基準法第20条に違反する行為と言えます。

この点、労働基準法第104条は、労働基準法に違反する使用者があった場合に労働者に労働基準監督署への申告を認めていますから、労働者がその違反行為を監督署に申告することで監督署からの指導や監督権限の行使を促すことができれば、監督署の指導に従って会社が解雇予告手当の支払いに応じることも期待できます。

【労働基準法第104条1項】

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

ですから、労働基準監督署への申告を検討してみるのも、対処法の一つとして有効な場合があると考えられるのです。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の記載例は以下のようなもので差し支えないと思います。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:大阪市〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:大阪市〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社 甲
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:06-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのある雇用契約(アルバイト)←※註1
役 職:特になし
職 種:店員

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法20条第1項、同条第2項、同条第3項、同法第19条第2項

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・申告者は、違反者から、〇年○月〇日に発生した地震の影響で事業の継続が不可能になったことを理由に、同年〇月〇日付で解雇された。
・この解雇に際し、違反者において労働基準法第20条第3項が準用する同法第19条第2項の行政官庁の認定を受けた事実はない。
・したがって違反者は、申告者を解雇する際に労働基準法第20条第1項ないし2項で義務付けられた30日前の解雇予告を行うか、30日分の平均賃金を支払わなければならないが、違反者は30日分の平均賃金を支払うことなく即日解雇している。
・したがって、違反者が解雇の予告をせず、かつ30日分の平均賃金を支払わずに申告者を解雇した行為は労働基準法第20条に違反していると言える。

添付書類等
・解雇通知書の写し……1通(←注2)

備考
特になし(←注3)

以上

※註1:正社員の場合は「期間の定めのない雇用契約」などと記載してください。

※註2:労働基準監督署への申告に証拠書類は必須ではありませんので必ずしも添付する必要はありません。なお、書類を添付する場合、原本は後日裁判などで使用する可能性がありますので添付する場合は必ず「写し(コピー)」を添付するようにしてください。

※註3:会社から嫌がらせを受ける恐れがある場合は備考欄に「違反者に本件申告を行ったことが知れると、違反者から不当な圧力(元上司が申告者の自宅に押し掛けて恫喝するなどが過去にあった)を受ける恐れがあるため、違反者には本件申告を行ったことを告知しないよう配慮を求める。」などと記載してください。

(4)労働局に個別紛争解決援助(またはあっせん)の申し立てを行う

労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行っても解雇予告手当が支払われない場合は、労働局に個別労働関係紛争解決援助または”あっせん”の申し立てをしてみるのも解決方法の一つとして有効です。

労働局では事業者とそこに勤務する労働者との間で生じた紛争の解決を図るため、個別紛争解決援助の手続きを行っており、そこではあっせん委員によるあっせん手続きも利用できますから、この労働局の紛争解決手続きを利用することで労働局の関与の下で未払い(不払い)分の解雇予告手当に関するトラブルの解決を図ることも期待できます。

なお、この労働局の手続きについては『労働局の紛争解決援助(助言・指導・あっせん)手続の利用手順』のページで詳しく解説しています。

(5)その他の対処法

以上の外の解決手段としては、各都道府県やその労働委員会が主催する”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士(または司法書士)に個別に相談・依頼して裁判や裁判所の調停手続きを利用して解決を図る手段もあります。

なお、これらの解決手段については以下のページを参考にしてください。

労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは