「応募者は○市の居住者に限る」旨の求人は採用差別にならないか

「応募者は○○市内の居住者に限る」などという求人で労働者を募集する企業がごく稀にあります。

たとえば、ある地方に物流センターを新設した企業が、そこで働く労働者を募集するために「応募者は○○市内に居住するものに限る」などとする求人広告を出したり、個人経営の店舗が「徒歩又は自転車で通勤可能な距離に住んでいる人」に限定してアルバイトを採用するようなケースです。

しかし、このように居住地によって応募者を限定する求人は、そこに居住していない応募者を排除することにつながりますから、居住地によって採用を差別しているようにも思えます。

では、このように居住地によって応募者を限定する求人は採用差別(就職差別)にならないのでしょうか。

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居住地によって応募者を限定する求人は求人は採用差別(就職差別)につながる可能性がある

このように、居住地によって応募者を限定する求人を出す企業があるわけですが、結論から言えばこのような求人は採用差別(就職差別)につながるおそれがあると言えます。

なぜなら、そのような求人は特殊なケースを除いてその地域に居住していない応募者を合理的な理由なく排除することにつながり、応募者の「就職の機会均等」が損なわれることになるからです。

日本国憲法が保障している 職業選択の自由(憲法22条)や財産権の保障(憲法29条)などの規定からは「契約自由の原則」が導かれると考えられていますので、企業(個人事業主も含む)にはその「契約自由の原則」から派生される「契約自由の原則」も認められるものと考えられています。

つまり、企業が労働者の採用に当たってどのような属性の求職者を募集し採用するかは、もっぱらその企業の自由な選択に委ねられるものと考えられているわけです。

もっとも、その「採用の自由」も無制約なものではありません。憲法は職業選択の自由(憲法22条)や法の下の平等(憲法14条)などの人権も保障していますので、求職者の人権を制限してまで企業の「採用の自由」を認めることはできないからです。

即ち、企業の「採用の自由」があるとしても、公共の福祉(憲法12条)の範囲でその自由が許されるだけであり、求職者の「就職の機会均等」が損なわれるような採否の判断はできないと考えられているわけです。

では、これを踏まえたうえで居住地によって応募者を限定する求人を考えてみますが、まず居住地は個人の適性や能力とは関係がありませんから、能力や適性の観点から見れば居住地によって応募者を限定する求人に合理的な理由は存在しません。

また、その限定された居住地以外に住む求職者を一律に排除するとなれば、その地域以外に住む求職者を合理的な理由なく差別し、就職する機会を奪うことになりますから、法の下の平等にも反しているといえますので、そこに求職者における「就職の機会均等」が損なわれる問題を惹起させます。

以上のような問題を考えれば、居住地によって応募者を限定する求人は、採用差別(就職差別)につながる可能性を指摘できるものと考えられます。

自治体による企業誘致で補助金等の交付要件に居住地の限定が必要になるケースでは合理的な理由が肯定されるケースもあり得る

このように、居住地によって応募者を限定する求人は採用差別(就職差別)につながるとの指摘ができますが、例外的にそのような居住地域の特定が許されるケースも存在します。

たとえば、自治体などが地域振興などのために企業誘致を行い、その自治体に居住する住民を雇用することを条件として補助金などの交付するようなケースです(※厚生労働省の指針「公正な採用選考を目指して」参照※このページ下部でリンクしています)。

このような自治体の企業誘致に応じて企業が工場などを新設する場合、補助金等の交付を受けるために当該地域の住民を積極的に雇用する必要性がありますから、そうしたケースでは、求人に際して居住地によって応募者を限定することに合理的な理由があると判断される可能性もあります。

ですから、そうした例外的なケースでは、居住地によって応募者を限定する求人に差別性はないと判断されてそうした求人が許されることもあるかもしれませんので、居住地によって応募者を限定する求人のすべてが差別とは言えない可能性がある事も理解しておく必要があります。

もっとも、厚生労働省の指針(※下の引用部分参照)では、このようなケースであっても、地元以外の求職者を排除しないような配慮が必要になるとしていますので、居住地によって応募者を限定する求人に一定の合理的な理由が認められるケースでも、それ以外の地域の住民を完全に排除するような求人は差別性の問題を惹起させる可能性はあるかもしれません。

居住地で限定をかけるということは、当該地域以外の地域にきょじゅうしている人を排除し、その応募機会を制限しているということであり、例えば自治体が地元住民の雇用を条件とした補助金等を付けて企業誘致をし、その企業が当該補助金等受給期間中に募集を行った場合など、その合理性が認められる特殊な例外もあるかと思われますが(その場合であっても、地元住民が優先されるとしても地元以外の者を排除しないようにすることが求められると考えられます)、そのような合理的な理由のない限り、居中地域による差別の恐れがあります。

※出典:公正な採用選考を目指して|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/saiyo-01.pdfより引用