会社から「有休を使って五輪ボランティアに行け」と言われた場合

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会社に五輪ボランティアへの参加を強制させられた場合の対処法』のページでは会社から無理やり五輪ボランティアに参加させられそうになった場合の対処法などについて解説しました。

そこでも説明しているように、五輪ボランティアへの参加はそれ自体が雇用契約(労働契約)で合意した「職種」と「就業場所」という労働条件を変更することになりますので、労働者の個別の同意がない限り使用者が労働者に五輪ボランティアへの参加を強制させることはできないものと解釈されます。

もっとも、労働者の個別の同意があった場合は話が別です。

労働者が会社からの五輪ボランティアへの参加の要請を受け入れた場合には、そのボランティアに参加している期間中の「職種」と「職場」の変更について労働者が合意したことになりますので、会社からの五輪ボランティアへの参加の強制が雇用契約(労働契約)による命令として認められることになります。

ところで、このように会社が労働者の同意を得て五輪ボランティアへの参加を命令する場合に、会社が強制的に有給休暇を使わせてボランティアに参加させるケースがあります。

たとえば、オリンピックの組織委員会からボランティア人員の割り当てノルマを課せられた企業が自社の従業員に対して五輪ボランティアへの参加を命令し、それに同意した従業員に対して1週間の五輪ボランティアへの参加を指示しながら、その1週間についてその対象となる従業員の有給休暇を強制的に消化させてしまうようなケースです。

このようなケースでは、労働者の同意があることから会社の五輪ボランティアへの参加の強制自体は認められることになりますが、会社の命令にしたがってボランティアに参加しているのであればそのボランティア期間中の行動は「業務時間」となり通常業務で働いているのとその実質は変わりありません。

それにもかかわらず、本来は自由に使えるはずの有給休暇を強制的に消化させられてしまうとなれば、有給休暇を会社に一方的に取り上げられるのと同じになり、労働者は不当な不利益を受けてしまうことになるでしょう。

では、このように会社からの五輪ボランティアへの参加命令に同意した労働者のボランティア参加期間中の日数について、会社が強制的に有給休暇を消化させることは認められるのでしょうか?

また、そのようにして強制的に有給休暇を消化させられた場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか?

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会社が五輪ボランティアへの参加期間中の日数について有給休暇を強制的に消化させることはできない

このように、会社が労働者に対して五輪ボランティアへの参加を命じておきながら、その労働者がボランティアに参加した期間について強制的に有給休暇を消化させてしまうケースがありますが、結論から言うとそのような強制的な有給休暇の消化は違法となります。

なぜなら、会社が五輪ボランティアへの参加を業務命令として労働者に指示している場合、たとえその指示に労働者が同意した場合であっても、業務として五輪ボランティアに参加していることには変わりなく、そのボランティア活動期間は「労働」しているのと同じになるからです。

会社に五輪ボランティアへの参加を強制させられた場合の対処法』のページでも説明したように、会社が五輪ボランティアへの参加を命じる場合には、ただ単にそのボランティア期間中は働く場所がそれまでの職場から「五輪会場」に、また働く仕事がそれまでの職場の仕事から「五輪のボランティア」に変更されるだけであって、単に「職種」と「労働する場所」という労働条件が「五輪会場」における「ボランティア」に変更されるにすぎません。

会社が労働者に対して五輪ボランティアへの参加を命令している場合には、そのボランティア期間中は「働いているのと同じ」なのですから、有給休暇が仕事を「休む」ために利用するものである以上、会社が「ボランティアとして働いた」労働者の有給休暇を消化させることができないのは当然です。

この点、労働基準法では、その39条で年次有給休暇を付与することが義務付けられていますから、それに反して「ボランティアとして働いている」労働者についてその労働者の有給休暇を勝手に会社が消化させてしまったとすれば、その会社は労働基準法上で付与すべきことが義務付けられている有給休暇を根拠なく労働者から「取り上げている」ことになりますので、労働基準法39条に違反して有給休暇を付与していないということになるでしょう。

ですから、仮に会社が自社の従業員に対して「五輪ボランティアに参加しろ!」と命じ、これに従業員が同意した場合であっても、会社はその五輪ボランティア期間中の日数分の有給休暇をその対象となる従業員に強制的に消化させることはできませんし、もし仮にそうして有給休暇を消化させてしまった場合には、労働基準法39条に違反するということになるのです。

会社から命じられた五輪ボランティアへの参加期間中に有給休暇を強制的に消化させられてしまった場合の対処法

以上で説明したように、仮に会社が労働者に対して五輪ボランティアへの参加を命じ、これにその労働者が同意した場合であっても、会社がそのボランティア期間中の日数分の有給休暇を消化させることはできませんし、もし仮に会社がそのボランティア期間中の日数分の有給休暇を強制的に消化させてしまった場合には、本来与えなければならない有給休暇を与えなかったものとして、雇用契約(労働契約)に違反ないしは労働基準法39条に違反するということになるでしょう。

もっとも、全ての会社がこのような法律上の解釈を理解しているわけではありませんから、中には強引に五輪ボランティアへの参加を命じておきながら有給休暇を消化させてしまう会社もあるかもしれませんので、その場合の具体的な対処法が問題となります。

(1)五輪ボランティアへの参加期間中の有給休暇の消化が違法なものであることを通知する通知書(申入書)等を作成し送付してみる

会社が五輪ボランティアへの参加を命じておきながら、その五輪ボランティアの参加期間中の日数分の有給休暇を強制的に消化させてしまうような場合には、その違法性や雇用契約(労働契約)に違反することを書面に記載した通知書(申入書)等を作成し会社に送付するというのも一つの対処法として有効です。

もちろん、口頭で「五輪ボランティアへの参加は会社の命令で参加してるだけで働いているのと同じだから有給休暇を消化するのはおかしい!」「有給休暇を強制的に消化させるなら労働基準法39条で定められた有給休暇が与えられていないことになるぞ!」と抗議することも差し支えありませんが、そのような会社が口頭で抗議しただけで態度を改めるとは思えませんし、仮に将来的に裁判などに発展した場合には、「会社に有給休暇を強制的に消化させてボランティアに行かせることの不当性を説明したのに受け入れられなかった」という点を客観的証拠を添付して立証する必要がありますので、コピーを取ることで有体物として保存することができる「書面」の形で通知しておくことも必要になります。

ですから、このようなケースでは改めて「書面」という形で会社の不当性を通知しておいた方がよいと思います。

なお、その場合に会社に送付する通知書(申入書)の文面は以下のようなもので差し支えありません。

○○株式会社

代表取締役 ○○ ○○ 殿

五輪ボランティア参加における有給休暇消化に関する申入書

私は、〇年〇月〇日から同年〇月〇日までの期間、貴社からの求めに応じて、同期間に開催される東京オリンピックのボランティア要員として、国立競技場周辺における外国人観光客の誘導に関する業務に従事することになりました。

この五輪ボランティアは上司の◇◇に命じられたことから参加することに決まったものであり、そのボランティアに参加すること自体は会社の指示によるものと思料しておりますが、上司の◇◇からは、そのボランティアに参加した期間中の日数について、有給休暇を消化する形で事務手続が処理されることになるとの説明を受けております。

しかしながら、このように使用者が五輪ボランティアに業務命令として参加させる行為は、ただ単にそのボランティア期間中に働く「場所」がそれまでの職場から「五輪会場」に、また働く「仕事内容」がそれまでの職場の仕事から「五輪のボランティア」に変更されるだけであり、単に「職種」と「労働する場所」という労働条件が「五輪会場」における「ボランティア」に変更されるにすぎませんので、五輪ボランティアに参加している期間中であっても、貴社において就労しているのとその実質的には何ら変わりありません。

そうであれば、その五輪ボランティアへの参加期間中の日数についても「労働時間」として計算されるべきであり、その期間中の日数を有給化として消化しなければならない雇用契約上の義務は私において発生しないものといえます。

そして、もし仮に五輪ボランティアへの参加期間中の日数を有給休暇として消化させる場合には、その消化された日数分だけ私の本来得られるべき有給休暇が貴社によって強制的に取り上げられることになりますが、そうなれば貴社は雇用契約上与えるべき有給休暇を与えず、また労働基準法39条に違反して法律上与えられるべき有給化を与えないということになりその雇用契約及び法律上の問題を生じさせることは避けられません。

したがって、貴社が当該五輪ボランティアへの参加について有給休暇を強制的に消化させようとしていること自体、雇用契約および労働基準法に違反するものといえますから、当該五輪ボランティアへの参加期間中の日数について、有給休暇を強制的に消化されることのないよう、本状をもって申入れいたします。

以上

〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号○○マンション〇号室

○○ ○○ ㊞

会社に送付する前に証拠として残すため必ずコピーを取っておき、また相手方に「到達した」という客観的証拠を残しておく必要があるため、普通郵便ではなく特定記録郵便など客観的記録の残る方法を用いて郵送すること。

(2)労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行う

会社から五輪ボランティアへの参加を命じられ、それに同意してボランティアに参加したにもかかわらず強制的にそのボランティア期間中の日数分について有給休暇を消化させられてしまった場合には、労働基準監督署に労働基準法違反の申告を行ってみるというのも対処法としては有効な場合があります。

なぜなら、先ほども述べたように会社が五輪ボランティアの参加期間中の日数分について有給休暇を消化させてしまった場合にはその消化された日数分の有給休暇が会社の一方的な都合によって取り上げられたことになりますが、労働基準法39条では6か月以上8割以上の出勤率で就労した労働者については10日以上の有給休暇を与えることが義務付けられているからです。

【労働基準法39条】

第1項 使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
第2項 使用者は、1年6箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して6箇月を超えて継続勤務する日(以下「6箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数1年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる6箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を6箇月経過日から1年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の8割未満である者に対しては、当該初日以後の1年間においては有給休暇を与えることを要しない。

6箇月経過日から起算した継続勤務年数労働日
1年1労働日
2年2労働日
3年4労働日
4年6労働日
5年8労働日
6年以上10労働日

(以下省略)

もし仮に、会社が五輪ボランティアの参加期間中の日数分だけ有給休暇を消化させてしまうことによって残りの有給休暇日数が労働基準法39条の規定で定められた有給休暇日数を下回るような場合には、その会社はその労働者に労働基準法上定められた有給休暇を与えていないということになるでしょう。

そうすると、そのようなケースではその会社は労働基準法違反を犯していることになり労働基準監督署の監督権限の行使の対象となりますが、使用者が労働基準法に違反している場合には労働者に労働基準監督署に違法行為の申告を行うことが認められていますので(労働基準法104条1項)、その労働者がその事実を労働基準監督署に申告することにより監督権限の行使を促すこともできると考えられます。

そして仮にその申告によって監督署が監督権限を行使すれば、会社が五輪ボランティアの参加期間中の日数分として消化した有給休暇を再度付与することも期待できますから、労働基準監督署への申告も、対処方法として有効と考えられるのです。

なお、この場合に労働基準監督署に提出する申告書の文面は以下のようなもので差し支えないでしょう。

労働基準法違反に関する申告書

(労働基準法第104条1項に基づく)

○年〇月〇日

○○ 労働基準監督署長 殿

申告者
郵便〒:***-****
住 所:東京都〇〇区○○一丁目〇番〇号○○マンション〇号室
氏 名:申告 太郎
電 話:080-****-****

違反者
郵便〒:***-****
所在地:東京都〇区〇丁目〇番〇号
名 称:株式会社○○
代表者:代表取締役 ○○ ○○
電 話:03-****-****

申告者と違反者の関係
入社日:〇年〇月〇日
契 約:期間の定めのない雇用契約←※注1
役 職:特になし
職 種:一般事務

労働基準法第104条1項に基づく申告
申告者は、違反者における下記労働基準法等に違反する行為につき、適切な調査及び監督権限の行使を求めます。

関係する労働基準法等の条項等
労働基準法39条

違反者が労働基準法等に違反する具体的な事実等
・違反者は、申告者に対して東京オリンピック開催期間中の〇年〇月〇日から〇月〇日までの10日間、国立競技場周辺における外国人観光客の案内業務のボランティアとして従事するよう命じ、申告者はその違反者の命令に従う形で同期間中、同所において五輪ボランティアを行った。
・この申告者が五輪ボランティアに参加した10日間について違反者は、申告者がその時点で保有していた有給休暇日数15日分のうち10日の有給休暇を消化したことにして事務処理を行い、申告者が保有する10日分の有給休暇日数を削減した。これにより本年において申告者が違反者から付与された有給休暇日数は5日間となり、労働基準法39条で定められた有給休暇日数に満たない有給休暇日数しか与えられていない状況に陥った。

添付書類等

・特になし。←注2

備考
本件申告をしたことが違反者に知れるとハラスメント等の被害を受ける恐れがあるため違反者には申告者の氏名等を公表しないよう求める。

以上

※注1:アルバイトや契約社員など「期間の定めのある雇用契約」の場合には、「期間の定めのある雇用契約」と記載してください。

※注2:会社が有給休暇を消化したことを示す証拠があれば添付してください。

※労働基準監督署に申告したことが会社にバレても構わない場合は、「備考」の欄の一文は削除しても構いません。

(3)その他の対処法

上記のような方法で対処しても会社側が五輪ボランティアへの参加期間中の日数を有給休暇で処理しようとする場合(又はした場合)は、会社側が自社の解釈によほど確固たる自信があるか、ただ単にブラック体質を有した法律に疎い会社かのどちらかである可能性が高いと思いますので、なるべく早めに法的な手段を取って対処する方がよいでしょう。

具体的には、労働局に紛争解決援助の申し立てを行ったり、自治体や労働委員会の”あっせん”の手続きを利用したり、弁護士会や司法書士会が主催するADRを利用したり、弁護士や司法書士に依頼して裁判を行うなどする必要があると思いますが、その場合の具体的な相談先はこちらのページでまとめていますので参考にしてください。

▶ 労働問題の解決に利用できる7つの相談場所とは

労働者が自主的に五輪ボランティアに参加するために有給休暇を使用するのは問題ない

なお、以上の解説はあくまでも使用者(雇い主)が労働者に対して五輪ボランティアに参加することを命令し、労働者がこれに応じて使用者の命令に従って五輪ボランティアに参加する場合に有給休暇として処理する場合のにおける法解釈の事例です。

これとは異なり、労働者が自らの意思で自主的に五輪ボランティアに参加するために有給休暇を使用することは、法律上または雇用契約上もなんら妨げられるものではありませんので、その点の違いを混同しないようにしてください。