使用者(雇い主)が労働者に対して職種や勤務地の変更を命じることを「人事異動」と言いますが、その人事異動は「配置転換(配転)」「出向」「転籍」の3つに大別されます。
この「配置転換(配転)」「出向」「転籍」はそれぞれ人事異動の目的や労働者に生じる影響がそれぞれ大きく異なりますが、雇用契約(労働契約)の細かな内容まで把握しきれていない労働者にとってはその違いは分かりにくいものです。
そこでここでは、人事異動における「配置転換(配転)」「出向」「転籍」の具体的な違いについて、それぞれ簡単に解説してみることにいたしましょう。
配転とは
配転とは、配置転換の略称で、勤務している会社における「職種」や「勤務地(勤務場所)」が変更される人事異動をいいます。
(1)職種の変更をともなう配転の場合
配転のうち「職種」の変更が伴うものとしては、たとえば営業職で採用された社員が総務職に移動になったり、現場作業員として働く労働者が設計の部署に配置換えされるようなケースが代表的です。
会社では「移動」とか「配置換え」とか言われることが多く、働く部署そのものが変更される場合もありますが、働く部署がそのままでも従前の職種とは異なる職種に変更される場合には、「職種の変更を伴う配転」があったということになるでしょう。
なお、配転は労働者自身の希望があるかないかは関係ありませんので、例えば運送会社でに営業職で採用された労働者が自らの意思で大型自動車の免許を取得して自ら望んで配送ドライバーに配置転換を申し出る場合も「配転」になりますし、会社から大型免許を取得するよう命じられて渋々配送ドライバーへの職種変更を受け入れる場合も「配転」ということになります。
(2)勤務地(勤務場所)を伴う配転の場合
配転(配置転換)のうち「勤務地(勤務場所)」の変更が伴うものは一般に「転勤」と呼ばれています。
たとえば、東京の本社で採用を受けたアナウンサーが福岡の放送局に移動させられたり、大阪工場で品質管理部長として勤務している社員が北海道の旭川工場の工場長として移動になるような場合です。
また、同じ事業所内でも、たとえば本社ビルの9階にある総務部から5階にある営業部に配置換えされるようなケースも「勤務地(勤務場所)」の変更を伴う「配転」といえます(※このケースでは勤務地だけでなく職種についても配転がなされたということになるでしょう)。
(3)「配転」が後述する「出向」「転籍」と違う点
なお、この「配転(配置転換)」が後述する「出向」や「転籍」と大きく異なるのが、在籍し、かつ、実際に就労する会社は配転前の会社と同じという点です。
先ほどの(1)で説明したように「職種」の変更を伴う配転の場合には実際に就労する職種が変更になるわけですが、あくまでも勤務する会社や就労する会社はその配転がなされる前の会社のままであり、従前の会社の指揮命令に従うことに変わりありません。
また、(2)で説明したように「勤務地(就業場所)」の変更を伴う配転の場合も、実際に働く場所(勤務地)が変更されることになるわけですが、勤務する会社自体には変更はないので、あくまでも従前の会社の社員としての地位のままで勤務地だけが変更されるだけに過ぎません。
これに対して後述する「出向」の場合には在籍している会社こそ従前のままですが、出向先は全く別の会社となり従前とは全く別の会社の指揮命令下に置かれることになりますし、「転籍」の場合には、従前の会社をいったん退職し新たに転籍先の会社に再就職することになりますから、その点が「配転」と大きく異なるといえます。
出向とは
出向とは、社員としての地位は従前の会社に置いたままで、出向先の別の会社でその出向先の会社の社員として働くような人事異動をいいます。
たとえばA社に採用された労働者Xが、A社に社員としての席を置いたままでA社の関連会社であるB社に移動してB社の社員として勤務するような場合です。
この場合の労働者XはB社の社員としてB社の指揮命令下に置かれることになりますので、B社の上司の命令に従わなければなりませんが、あくまでもA社の社員としての地位は残されますので、雇用契約(労働契約)はA社との間で結ばれるだけでありB社との間で雇用契約(労働契約)が結ばれるわけではありません。
給料は一般的な出向では出向元(この事例ではA社)の会社から支払われるのが通例ですが、会社間の取り決め(この例でいえばA社とB社の取り決め)によっては出向先の会社(この例でいえばB社)が直接支払う場合もあります。
なお、この出向は勤務する会社自体が異なることになりますので「勤務地」が変更になるのが前提となりますが、出向先の会社で従事する仕事内容が従前の仕事内容と異なる場合には「職種」も変更されることになります。
この「出向」と前述した「配転」の大きな違いは、出向先の別の会社の指揮命令下に置かれることになるという点です。
先ほど説明した「配転」の場合はあくまでも同一会社内での職種または勤務地の移動に過ぎませんでしたから、配転があった後も指揮命令に従わなければならないのは配転前の会社と同じ会社です。
しかし、出向の場合には、出向先の会社は従前とは全く別の会社となりその全く別の会社の指揮命令に従わなければならなくなりますので、その点が大きな違いと言えます。
なお、出向の場合はあらかじめ出向期間が「〇年間」などと決められるのが普通ですので、その出向期間が経過すれば元の職場に戻されて従前の会社で働くことになるのが通常です。
転籍とは
転籍とは、勤務している会社との雇用契約(労働契約)関係をいったん解消したうえで、改めて転籍先の会社と新たに雇用契約(労働契約)を結びなおし、その転籍先の会社の社員となって勤務する人事異動のことを言います。
たとえば、A社とB社の間でA社に勤務する労働者Xの転籍の合意が行われ、A社から「B社に転籍してほしい」と打診された労働者Xがそれに承諾していったんA社との間の雇用契約(労働契約)を合意解約し、A社を退職する手続きを経たうえでB社との間で新たに雇用契約(労働契約)を結んでB社に入社してB社の社員として勤務するような場合です。
先ほど説明した「配転」や「出向」の場合には移動前の従前の会社との雇用契約(労働契約)は存続していますが、「転籍」の場合には、従前の会社(この事例ではA社)は退職し、新たに転籍先の会社(この事例ではB社)に再就職することになりますので、従前の会社との雇用契約(労働契約)は完全に消滅してしまう点が大きく異なります。
転籍の場合には、転籍先の会社の社員としてのみその後の雇用契約は継続されることになりますので、給料体系や雇用条件等もすべて転籍先の会社の条件が適用される点で「配転」や「出向」と比較して労働者に与える影響が最も大きい人事異動の種類と言えます。
なお、給料や労働条件等は転籍後は転籍先の会社の決めた諸条件が適用されることになりますが、転籍前の会社と転籍後の会社で条件のすり合わせ等が行われるのが通常ですので、労働者が転籍を打診された場合には転籍後の労働条件が具体的にどのようなものになるのかという点を十分に把握したうえで転籍に合意するか否か判断する必要があります。
配転・出向・転籍の違いのおさらい
以上をまとめると以下のようになります。
- 配転とは
→同じ会社内部で職種または勤務地が変更されること。 - 出向とは
→今の会社に社員としての席は残したままで別の会社の社員として働くこと。働く会社自体が異なることになるので勤務地は当然に変更されることになるが、ケースによっては職種も変更される場合もある。 - 転籍とは
→今の会社をいったん退職したうえで会社が指定する全く別の会社に改めて入社すること。前の会社はいったん退職することになるので形式的には転籍後は再就職という形になる。勤務地は当然に変更されることになるが職種が変更されるかは会社間の合意次第で異なる。